「友達の友達から聞いたんじゃけど」と来ると、わしは眉に唾をつける。ところが「本人が見た」と言われるより、そっちのほうがつい信じてしまうんじゃ。どうしてなんじゃろ。
本人が見たと言えば、聞き手は「いつ、どこで」と本人に尋ねられますよね。一段離れると、尋ねる相手が話の中から消えます。ここが出発点で、あとは実際の記録でどこまで言えるかを見ていきましょう。
都市伝説の出所は、たいてい「話し手のすぐ隣」ではなく「一段先」にある。
2026年7月、ヤン・ハロルド・ブルンヴァンの『消えるヒッチハイカー』(原著1981年)の新訳が東京創元社から出た(訳者は満園真木。リアルサウンドの紹介記事による)。この本は、いわゆる「都市伝説」を民俗学の対象として一般向けに広めた一冊として知られる。今回は、その研究の世界で「友達の友達」がどう扱われてきたかを、確認できる範囲でたどる。
「友達の友達」という言葉は、いつ誰が付けたのか
出典:Wikipedia「Rodney Dale」「Vanishing hitchhiker」、FOAFtale News 45 をもとに編集部作成。
「友達の友達」は日常の言い回しに見えて、研究の側から名前を付けられた現象だった。Wikipedia によれば、イギリスの作家で民俗学者の Rodney Dale が1976年に foaf という略語を考え出した。1978年の著書『The Tumour in the Whale』では、「あちこちから報告され、出所が怪しく、ほぼ確実にクジラの腫瘍の話(=よく知られた作り話)だ」という意味でこの語を使った、と Brunvand は紹介されている。
面白いのは、この語自体の出所もきれいには一本に絞れないことだ。ISCLR の会報『FOAFtale News』の編集者は、foaf の最初の使用が Dale の1978年だという訂正を受け入れたうえで、会報名そのものは1980年代のシェフィールドでの学会の席で飛び出した冗談に由来するようだ、と書いている。
学会の人たちが、自分たちの会報に「友達の友達」と名前をつけたのか。なんだか自分で自分の話のネタにしとるようで、かわいげがあるのう。
そうなんです。ただ、名前を付けたくなるほど、どの国の現代伝説にも「語り手から社会的な距離のある誰か」が出てくる、ということでもあります。会報の編集者は「ボーイフレンドのいとこ」「同僚の叔母」といった例を挙げています。
出所を一段先に置くと、何が起きるのか
Wikipedia の「都市伝説」の項は、語り手が出来事を「友達(または友達の友達)に起きた」と述べることで、話を身近なものにし、本当らしく見せ、同時に語り手自身を荒唐無稽な話から遠ざける、と整理している。身近に感じさせることと、責任から離れることが、一つの言い方で両立する。
下の表は、出所の言い方ごとに聞き手がどこまで確かめられるかを、編集部が整理したものだ。調査データではなく、考え方の整理である。
| 出所の言い方 | 聞き手が直接尋ねられる相手 | 語り手が負うもの |
|---|---|---|
| 私が見た | 語り手本人 | 嘘なら本人の信用が傷つく |
| 友達が見た | 語り手の友達(会える可能性がある) | 友達の話を正しく伝えたかどうか |
| 友達の友達が見た | 語り手も会ったことがない人。ほぼ辿れない | 「聞いただけ」と言えば足りる |
| 〜らしい | いない | なし |
出典:Wikipedia「Urban legend」の記述をもとに編集部作成。
じゃが、「友達が見た」までなら、まだ友達を探せば済むじゃろ。わしなら探しに行くぞ。一段増えただけで、そんなに変わるもんかのう?
探しに行ける人は、実は少数だと思います。それに「友達の友達」は、名前も居場所も語り手が持っていないことが多いんです。Wikipedia の項でも、都市伝説の友人は名字なしの名前だけ、あるいは特定されないことが多いと述べられています。探す手がかり自体が最初から渡されていないんですよね。
口裂け女の「一段目」は、どこにいたのか
では、日本の例ではどうか。1979年に全国へ広まった口裂け女(詳しい広がり方は口裂け女はなんで1979年だけで全国制覇して、急に消えたん?)で、記録に残っている出所の言い方を並べてみる。
yokai.jp の整理によれば、噂の最も早い例として挙がるのは、1978年12月初旬に岐阜県本巣郡の高齢の農家の女性が、庭の外便所で口裂け女を見て怖さのあまり倒れた、という話である。ただし、これは「そういう噂があった」と後から語られた形で、見たとされる本人の証言として残っているわけではない。
活字になった最初の記録は、1979年1月26日の『岐阜日日新聞』コラム「編集余記」とされる(国立国会図書館のレファレンス事例で、その日付と欄名が確認できる)。yokai.jp は、そこに書かれた出所を「岐阜の子どもたちのあいだのうわさ」と紹介している。
新聞に載った時点で、すでに出所は「子どもたちのうわさ」だった。
つまり、記録をたどれる範囲の最古の時点でも、「誰が見たのか」には行き着けない。yokai.jp はこの構造を、民俗学でいう「友達の友達」の型に当てはまると述べている。同年6月29日付の『週刊朝日』が全国の小中学生を怖がらせる怪しい噂として特集した時には、出所はすでに「一段先」のまま全国に広がっていた。
面白いのは、新聞が取り上げても一段目の人は現れなかったことです。記事が出ると「新聞に載っていた」が加わって、出所の説明がさらに増えます。ただ、その一つ前に誰がいるかは、紙面には書かれていません。
ふむ。「新聞に載っとった」は、わしの耳には「知り合いの知り合いが見た」より強く聞こえるんじゃが、中身は同じ一段先のままじゃな。強く聞こえるだけで、確かめる道は増えとらんのか。
聞いた話を受け取るときの点検
ここまでを使って、「友達の友達から聞いた」話を受け取る時に手元で確認できる点を整理する。確かめられるものが残っていれば、その話は一段先の話ではない。
出所が一段先にある話は、嘘と決まったわけではなく、確かめる材料が最初から話の外に置かれている話だ。書き手や語り手の悪意と関係なく、形がそうなっている。
じゃあ、これからは「友達の友達」に出会ったら、その人の名前を聞けばよいんじゃな。聞いてみて、答えられなんだら、そこで話は止めればよい、と。
はい。ただ、名前を聞かれた語り手が困るのは、嘘をついているからとは限らないんです。本当にその人を知らないだけのことも多い。止めるのは話を広めるところまでで、信じるかどうかは別に保留しておけば足りると思います。
この記事の足場について
この記事で「研究ではこうなっている」と書いた部分の多くは、Wikipedia と ISCLR 会報の編集者の記述という二次情報に立っている。Beardsley と Hankey の1942年の論文は原文を開いたが、本文を機械的に読み取れず、79件の数字などは Wikipedia 経由の引用である。口裂け女のコラム本文にも当たれていない。確かめられない一段先の話を扱いながら、こちらも一段先から引いている。その点を隠さないために、どこが引用でどこが整理かを本文中で分けて書いた。
「友達の友達」と聞いたら、まず名前を聞くことじゃな。……わしにも覚えがあるぞ。「隣村の庄屋の孫が見たそうじゃ」と得意になって話して、「その孫の名は」と問われて黙ってしもうたことがある。
主な参照資料:
- Rodney Dale - Wikipedia — foaf の考案(1976年)、『The Tumour in the Whale』(1978年)、OED 収録(2009年)
- FOAFtale News 45(ISCLR) — 会報名の由来と、Dale の1978年の使用に関する編集者の説明
- Urban legend - Wikipedia — 「友達の友達」が語りを本当らしく見せ、語り手を遠ざける働き
- Vanishing hitchhiker - Wikipedia — Beardsley と Hankey の1942〜43年の研究、Brunvand の1981年の本
- リアルサウンド ブック「『消えるヒッチハイカー』新訳で探る都市伝説の本質」 — 新訳の刊行(東京創元社・2026年7月)
- yokai.jp「口裂け女 1979年」 — 1978年12月の最初の噂、1979年1月26日と6月29日の報道
- 国立国会図書館レファレンス事例「『岐阜日日新聞』1979年1月26日 朝刊1面『編集余記』」 — 活字初出の日付と欄名
参考文献・検証ログ
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参考資料
- 参考Rodney Dale - Wikipediaen.wikipedia.org
- 参考FOAFtale News 45(ISCLR)folklore.ee
- 参考Urban legend - Wikipediaen.wikipedia.org
- 参考Vanishing hitchhiker - Wikipediaen.wikipedia.org
- 参考リアルサウンド ブック「『消えるヒッチハイカー』新訳で探る都市伝説の本質」realsound.jp
- 参考yokai.jp「口裂け女 1979年」yokai.jp
- 一次国立国会図書館レファレンス事例「『岐阜日日新聞』1979年1月26日 朝刊1面『編集余記』」crd.ndl.go.jp