ふしぎ観測

都市伝説はなぜ、いつも「友達の友達から聞いた話」なの?

2026年10月22日 By NTM Editorial
aiko
aiko

「友達の友達から聞いたんじゃけど」と来ると、わしは眉に唾をつける。ところが「本人が見た」と言われるより、そっちのほうがつい信じてしまうんじゃ。どうしてなんじゃろ。

sa-tan
sa-tan

本人が見たと言えば、聞き手は「いつ、どこで」と本人に尋ねられますよね。一段離れると、尋ねる相手が話の中から消えます。ここが出発点で、あとは実際の記録でどこまで言えるかを見ていきましょう。

都市伝説の出所は、たいてい「話し手のすぐ隣」ではなく「一段先」にある。

2026年7月、ヤン・ハロルド・ブルンヴァンの『消えるヒッチハイカー』(原著1981年)の新訳が東京創元社から出た(訳者は満園真木。リアルサウンドの紹介記事による)。この本は、いわゆる「都市伝説」を民俗学の対象として一般向けに広めた一冊として知られる。今回は、その研究の世界で「友達の友達」がどう扱われてきたかを、確認できる範囲でたどる。

「友達の友達」という言葉は、いつ誰が付けたのか

図1 「友達の友達」をめぐる研究と語の年表
1942〜43年
Beardsley と Hankey が「消えるヒッチハイカー」を論文化。全米から集めた79件の報告を分類した
研究
1976年
Rodney Dale が foaf(friend of a friend)の語を考案したとされる
語
1978年
Dale『The Tumour in the Whale』で foaf が使われる。会報編集者の言う「最初の使用」
語
1981年
Brunvand『The Vanishing Hitchhiker』刊行
研究
1985年
国際現代伝説研究学会(ISCLR)が会報『FOAFtale News』を創刊
学会
2009年
foaf がオックスフォード英語辞典に追加される
語
注:1976年の考案はWikipediaの記述による。1978年の「最初の使用」は ISCLR 会報の編集者の説明による。
出典:Wikipedia「Rodney Dale」「Vanishing hitchhiker」、FOAFtale News 45 をもとに編集部作成。

「友達の友達」は日常の言い回しに見えて、研究の側から名前を付けられた現象だった。Wikipedia によれば、イギリスの作家で民俗学者の Rodney Dale が1976年に foaf という略語を考え出した。1978年の著書『The Tumour in the Whale』では、「あちこちから報告され、出所が怪しく、ほぼ確実にクジラの腫瘍の話(=よく知られた作り話)だ」という意味でこの語を使った、と Brunvand は紹介されている。

面白いのは、この語自体の出所もきれいには一本に絞れないことだ。ISCLR の会報『FOAFtale News』の編集者は、foaf の最初の使用が Dale の1978年だという訂正を受け入れたうえで、会報名そのものは1980年代のシェフィールドでの学会の席で飛び出した冗談に由来するようだ、と書いている。

aiko
aiko

学会の人たちが、自分たちの会報に「友達の友達」と名前をつけたのか。なんだか自分で自分の話のネタにしとるようで、かわいげがあるのう。

sa-tan
sa-tan

そうなんです。ただ、名前を付けたくなるほど、どの国の現代伝説にも「語り手から社会的な距離のある誰か」が出てくる、ということでもあります。会報の編集者は「ボーイフレンドのいとこ」「同僚の叔母」といった例を挙げています。

出所を一段先に置くと、何が起きるのか

Wikipedia の「都市伝説」の項は、語り手が出来事を「友達(または友達の友達)に起きた」と述べることで、話を身近なものにし、本当らしく見せ、同時に語り手自身を荒唐無稽な話から遠ざける、と整理している。身近に感じさせることと、責任から離れることが、一つの言い方で両立する。

下の表は、出所の言い方ごとに聞き手がどこまで確かめられるかを、編集部が整理したものだ。調査データではなく、考え方の整理である。

表1 出所の言い方と、聞き手が確かめられること
出所の言い方聞き手が直接尋ねられる相手語り手が負うもの
私が見た語り手本人嘘なら本人の信用が傷つく
友達が見た語り手の友達(会える可能性がある)友達の話を正しく伝えたかどうか
友達の友達が見た語り手も会ったことがない人。ほぼ辿れない「聞いただけ」と言えば足りる
〜らしいいないなし
注:確かめられる度合いの違いを示す定性的な整理で、割合や件数は含まない。
出典:Wikipedia「Urban legend」の記述をもとに編集部作成。
aiko
aiko

じゃが、「友達が見た」までなら、まだ友達を探せば済むじゃろ。わしなら探しに行くぞ。一段増えただけで、そんなに変わるもんかのう?

sa-tan
sa-tan

探しに行ける人は、実は少数だと思います。それに「友達の友達」は、名前も居場所も語り手が持っていないことが多いんです。Wikipedia の項でも、都市伝説の友人は名字なしの名前だけ、あるいは特定されないことが多いと述べられています。探す手がかり自体が最初から渡されていないんですよね。

口裂け女の「一段目」は、どこにいたのか

では、日本の例ではどうか。1979年に全国へ広まった口裂け女(詳しい広がり方は口裂け女はなんで1979年だけで全国制覇して、急に消えたん?)で、記録に残っている出所の言い方を並べてみる。

関連: 円安がこんなに進んでるのに、なんで100円ショップは値上げしないの?

yokai.jp の整理によれば、噂の最も早い例として挙がるのは、1978年12月初旬に岐阜県本巣郡の高齢の農家の女性が、庭の外便所で口裂け女を見て怖さのあまり倒れた、という話である。ただし、これは「そういう噂があった」と後から語られた形で、見たとされる本人の証言として残っているわけではない。

活字になった最初の記録は、1979年1月26日の『岐阜日日新聞』コラム「編集余記」とされる(国立国会図書館のレファレンス事例で、その日付と欄名が確認できる)。yokai.jp は、そこに書かれた出所を「岐阜の子どもたちのあいだのうわさ」と紹介している。

新聞に載った時点で、すでに出所は「子どもたちのうわさ」だった。
出典:yokai.jp「口裂け女 1979年」の要旨を編集部が日本語にまとめた(コラム本文は参照できていない)

つまり、記録をたどれる範囲の最古の時点でも、「誰が見たのか」には行き着けない。yokai.jp はこの構造を、民俗学でいう「友達の友達」の型に当てはまると述べている。同年6月29日付の『週刊朝日』が全国の小中学生を怖がらせる怪しい噂として特集した時には、出所はすでに「一段先」のまま全国に広がっていた。

sa-tan
sa-tan

面白いのは、新聞が取り上げても一段目の人は現れなかったことです。記事が出ると「新聞に載っていた」が加わって、出所の説明がさらに増えます。ただ、その一つ前に誰がいるかは、紙面には書かれていません。

aiko
aiko

ふむ。「新聞に載っとった」は、わしの耳には「知り合いの知り合いが見た」より強く聞こえるんじゃが、中身は同じ一段先のままじゃな。強く聞こえるだけで、確かめる道は増えとらんのか。

聞いた話を受け取るときの点検

ここまでを使って、「友達の友達から聞いた」話を受け取る時に手元で確認できる点を整理する。確かめられるものが残っていれば、その話は一段先の話ではない。

チェックリスト 出所を点検する4つの問い
✅ 語り手が、見た人の名前・日付・場所のうち一つでも具体的に言えるか
✅ 新聞・公文書・記録など、語り手とは別の経路で同じ出来事が確認できるか
❌ 「聞いた話」の前に「友達の友達」「知り合いの知り合い」が付き、その人に辿り着けない
❌ 「新聞に載っていた」と言うが、新聞の日付や紙面が示されない

出所が一段先にある話は、嘘と決まったわけではなく、確かめる材料が最初から話の外に置かれている話だ。書き手や語り手の悪意と関係なく、形がそうなっている。

aiko
aiko

じゃあ、これからは「友達の友達」に出会ったら、その人の名前を聞けばよいんじゃな。聞いてみて、答えられなんだら、そこで話は止めればよい、と。

sa-tan
sa-tan

はい。ただ、名前を聞かれた語り手が困るのは、嘘をついているからとは限らないんです。本当にその人を知らないだけのことも多い。止めるのは話を広めるところまでで、信じるかどうかは別に保留しておけば足りると思います。

NTM ニュース整理

この記事の足場について

この記事で「研究ではこうなっている」と書いた部分の多くは、Wikipedia と ISCLR 会報の編集者の記述という二次情報に立っている。Beardsley と Hankey の1942年の論文は原文を開いたが、本文を機械的に読み取れず、79件の数字などは Wikipedia 経由の引用である。口裂け女のコラム本文にも当たれていない。確かめられない一段先の話を扱いながら、こちらも一段先から引いている。その点を隠さないために、どこが引用でどこが整理かを本文中で分けて書いた。

aiko aikoが飲み込んだところ

「友達の友達」と聞いたら、まず名前を聞くことじゃな。……わしにも覚えがあるぞ。「隣村の庄屋の孫が見たそうじゃ」と得意になって話して、「その孫の名は」と問われて黙ってしもうたことがある。


主な参照資料:

the NTM Core Engine 参考文献・検証プロセス
S 90pt
PENDING Audit PENDING_MANUAL_REVIEW
1 一次情報
3 二次情報
参考文献・検証ログ 7件
  1. Rodney Dale - Wikipedia
    二次情報 監査保留 最終参照: PENDING_MANUAL_REVIEW
  2. FOAFtale News 45(ISCLR)
    分類保留 監査保留 最終参照: PENDING_MANUAL_REVIEW
  3. Urban legend - Wikipedia
    二次情報 監査保留 最終参照: PENDING_MANUAL_REVIEW
  4. Vanishing hitchhiker - Wikipedia
    二次情報 監査保留 最終参照: PENDING_MANUAL_REVIEW
  5. リアルサウンド ブック「『消えるヒッチハイカー』新訳で探る都市伝説の本質」
    分類保留 監査保留 最終参照: PENDING_MANUAL_REVIEW
  6. yokai.jp「口裂け女 1979年」
    分類保留 監査保留 最終参照: PENDING_MANUAL_REVIEW
  7. 国立国会図書館レファレンス事例「『岐阜日日新聞』1979年1月26日 朝刊1面『編集余記』」
    一次情報 監査保留 最終参照: PENDING_MANUAL_REVIEW
Score Breakdown 90pt
Traceability 35/35
本文から根拠へ辿れる度合い
Diversity 25/25
出典の広がり
Evidence 25/25
根拠の強さ
Domain Bonus 5/15
一次資料・公的資料の補強
the NTM Core Engine review note

参照は 7 本あります。監査はまだ保留で、公開前の確認が残っています。

制作の流れ
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参照 7 本。一次情報 1 本 / 二次情報 3 本を当てて、本文の芯を固める。

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参考資料