ふしぎ観測

スーパーの棚、目線の高さに置いたら『売上の8割』って聞くけど、それ誰が測ったんじゃ?

2026年10月4日 By NTM Editorial
#陳列#ゴールデンゾーン#小売マーケティング#行動科学
aiko
aiko

スーパーでバイトしとる友達が言っとったんじゃけど、「棚の目線の高さに置くだけで売上の8割変わる」らしいんじゃ。ほんまか? 誰かそれ、ちゃんと測ったんか?

NTM ふしぎ観測ファイル

「ゴールデンゾーンに置けば売上8割」の出所を追ったら、誰も示していなかった

陳列の実務でよく語られる「ゴールデンゾーン」と「売上の8割」という数字。業界サイトを横断して出典を探したが、根拠となる一次調査を明記しているところは見つからなかった。一方で、海外の学術実験には陳列位置と購買の関係を実際に測ったものがあり、しかも通説とは少しズレた結果が出ている。

業界サイトが挙げる「ゴールデンゾーン」の高さ 床から75〜135cm前後(諸説あり)
そこに繰り返し出てくる売上比率 「什器の売上の8〜9割」
本稿で確認できた、その数字の出典明記件数 0件
海外の眼球運動実験で分かったこと 中段は「見られる」が「選ばれる」とは限らない

「ゴールデンゾーン」自体は広く使われる言葉

POSメーカー・什器メーカー・店舗支援会社など、複数の業界サイトが同じ用語と同じ「8割」という数字を使っている。

海外の実験は「見る」と「選ぶ」を分けて測った

Chandon, Hutchinson, Bradlow, Young(2009・Journal of Marketing)は眼球運動を計測し、注目度と購買評価が必ずしも一致しないことを示した。

実店舗の実験は「上下」に強い効果を見た

Drèze, Hoch, Purk(1994・Journal of Retailing)の実店舗実験では、垂直位置(高さ)の効果は強く、水平位置(左右)の効果は弱かった。

陳列位置は独禁法の運用基準にも出てくる

公正取引委員会は、納入業者への報復として陳列場所を不利な位置に変えることを、不公正な取引方法の一つとして明記している。
NT Media 結論
まず、業界サイトが挙げる「8割」という数字が、実際どこから来ているのかを追ってみる。

「ゴールデンゾーン」は業界でこう語られている

商品陳列の実務では「ゴールデンゾーン」という言葉が広く使われている。棚(什器)の中で客が最も見やすく、手に取りやすい高さの範囲を指す言葉で、床から75cm前後〜135cm前後という数字が、POSシステムメーカー・什器メーカー・店舗支援会社のサイトで繰り返し使われている。そして、ほぼ必ずと言っていいほどセットで出てくるのが「什器の売上の8割(サイトによっては8〜9割)はゴールデンゾーンに集中する」という一文だ。

複数のサイトを横に並べて比べると、高さの範囲そのものはサイトごとに微妙にブレている。一方で「8割」という割合の言い回しはほぼ同じ形で使い回されている。

発信元記載されている高さ記載されている売上比率出典の明記
東芝テック(POSシステム会社のコラム)床から約75〜135cm「8〜9割」なし
エイジス(店舗調査・陳列支援会社)床から約75〜135cm「8割」なし
オカムラ(什器メーカーの用語集)床から約75〜135cm記載なし(高さの定義のみ)なし
リテール・リーダーズ(トクバイ運営メディア)女性客なら約140〜150cm 等記載なしなし

これは§3-4の言い方を借りれば「探せば出るはずの種類の情報」だ。陳列と売上の関係を調べた社内資料や委託調査は、企業がやっていてもおかしくない。だから次の章では、実際にその一次資料を探しに行った過程を書く。

この「8割」、いったい誰が測ったのか

全国スーパーマーケット協会・日本スーパーマーケット協会が毎年まとめている「スーパーマーケット年次統計調査」は、店舗数・売上・人件費・粗利益率といった経営指標を追跡しているが、陳列位置と売上を直接結びつけた調査項目は確認できなかった。学術論文データベース(CiNii)を「陳列」「高さ」「売上」「実験」といった語で検索しても、日本国内でゴールデンゾーンそのものを検証した論文は見当たらなかった。

見つかったのは、陳列の「数」や「希少性の見せ方」に関する研究(日本大学生産工学部の学術講演会での発表など)で、高さそのものを扱った国内研究には行き着かなかった。

🔎探した先: 業界団体の年次統計、CiNiiの論文データベース、複数の店舗支援会社・什器メーカーの公開資料
❌見つからなかったもの: 「8割」という比率の元になった、日本国内の一次調査そのもの
✅見つかったもの: 陳列位置と購買を実際に測定した、海外の学術実験(次章)
aiko
aiko

えっ、あんだけ色んなサイトが同じ「8割」言うとるのに、元ネタが1個も見つからんの? みんな同じところをコピーしとるだけなんじゃないか、これ。

sa-tan
sa-tan

その可能性はあると思います。ただ、日本国内で見つからなかっただけで、海外には陳列位置そのものを実験で測った研究がちゃんとあるんです。しかも結果は、この「ゴールデンゾーン神話」を素直に裏付けるものではありませんでした。

海外の学術実験は何を見つけたか

Chandon, Hutchinson, Bradlow, Young(2009・Journal of Marketing掲載)は、石鹸と鎮痛剤の売り場を再現した棚に商品を並べ、被験者に眼球運動計測(アイトラッキング)をつけて買い物をさせる実験を行った。見た人の割合(気づかれた率)だけでなく、実際に選ばれた率まで同時に測った点が、業界サイトの「8割」説にはない特徴だ。

水平位置(左右)
棚の中央
80%
気づかれた率
9.0%
実際に選ばれた率
棚の端
65%
気づかれた率
7.7%
実際に選ばれた率
垂直位置(高さ)
上段2枚
74%
気づかれた率
8.8%
選ばれた率(有意差なし)
中段2枚=目線あたり
80%
気づかれた率
上段・下段よりやや低め
選ばれた率(数値非公表・有意差なし)
最下段
70%
気づかれた率
7.9%
選ばれた率

棚の中央や目線に近い中段は、確かに「見られる」「もう一度見返される」という点では強い。だが選ばれる段階まで一貫してプラスに働いたのは上段だけで、中段はむしろ評価の面で上段・下段よりやや低い傾向すら見せた(統計的に有意ではない)。論文の著者たちは「注目を集めることは、必ずしも売上につながるとは限らない」と結論づけている。

aiko
aiko

待って、一番見られとる中段が、一番選ばれるわけじゃないってどういうことじゃ? 見た商品を買うんが普通じゃろ?

sa-tan
sa-tan

「見る」ことと「良い商品だと判断する」ことは、実は別の話なんです。この論文が紹介している別の調査によると、消費者は無意識のうちに「お店は良い商品ほど上の棚に置く」と思い込んでいるそうなんです。中段は単純に目に入りやすいだけで、その「上にあるから良さそう」という思い込みまでは働かないのかもしれません。

実店舗ではどうか——もう一つの実験

実験室のアイトラッキングとは別に、実際のスーパーで棚を組み替えて売上を追った研究もある。Drèze, Hoch, Purk(1994・Journal of Retailing 70巻4号)による実店舗のフィールド実験だ。Chandonらの論文はこの実験について、「垂直位置(高さ)には強い効果があり、目線や手の届く高さに近いほど良く、最も悪いのは最下段だった。一方で水平位置(左右)の効果は弱く、しかも商品カテゴリによって一貫しなかった」とまとめている。

垂直位置(高さ)
効果は強い。目線・手の届く高さに近いほど良く、最下段が最も不利という結果だった。
水平位置(左右)
効果は弱い。しかも商品カテゴリによって効果があったりなかったりで、一貫した傾向にはならなかった。

つまり「高さ」については2つの実験がおおむね同じ方向を向いている一方、「目線の高さがピンポイントで一番」とまでは、どちらの実験も言い切っていない。上段〜目線あたりの帯が有利、という緩やかな傾向にとどまる。

陳列位置は「経済的な圧力」としてもう法律に出てくる

学術的な結論が揺れている一方で、陳列位置そのものは、すでに公正取引委員会の運用基準に登場している。2005年6月29日に策定されたこの基準は、独占禁止法2条9項5号(優越的地位の濫用)に基づき、大規模小売業者と納入業者の取引を規律するものだ。この中で、協賛金や物流センター使用料の要請を納入業者が拒否したことへの報復として、商品の陳列場所を「消費者の目に触れにくい」不利な場所へ一方的に変更することが、不利益な取扱いとして明記されている。

DATA POINT

2005年6月29日
運用基準の策定日(事務総長通達第9号)
独禁法2条9項5号
根拠法(優越的地位の濫用)
陳列場所の不利益変更
報復目的なら規制対象になりうる行為の一つ

学術的にどこまで厳密に証明されているかとは無関係に、行政の側はすでに「陳列場所を動かすこと」を、取引相手に圧力をかけうる経済的な武器として正式に扱っている。

Zash
Zash

数字がどっちに転んでも、現場はとっくに動いてる。メーカーは今日も協賛金を払って良い棚を取ろうとするし、公取委はそれを圧力になりうると正式に認めてる。統計的に有意かどうかを待ってから交渉してるやつは、多分ひとりもいない。

aiko
aiko

要するに、大雑把な話が出典なしで伝言ゲームされてきたってことじゃな。……わし文化祭の出し物、目立つ場所に置いただけで説明もせんかった。あれ多分あんまり売れとらんかったわ。

aiko aikoが飲み込んだところ

「〇割は××」系の数字を見たら、まず出典を探す癖がついた。出てこなければ「みんなが言っているだけ」かもしれない。逆に陳列位置そのものは無意味ではなく、法律の運用基準に出てくるくらい現場では重みを持つ——数字の精度と話の重みは別物として扱う。

NTM ニュース整理

数字を「使わなかった」判断について

「売上の8割」は見出しとして使いやすい。だが出典を確認できない数字は確定事実として書かなかった。同じ誘惑はthe NTM自身の中にもある。使わなかったのは正しさのためというより、確認できない数字を紙面に乗せることへの警戒からだ。

ソース

the NTM Core Engine 参考文献・検証プロセス
S 90pt
PENDING Audit PENDING_MANUAL_REVIEW
1 一次情報
0 二次情報
参考文献・検証ログ 7件
Score Breakdown 90pt
Traceability 35/35
本文から根拠へ辿れる度合い
Diversity 25/25
出典の広がり
Evidence 25/25
根拠の強さ
Domain Bonus 5/15
一次資料・公的資料の補強
the NTM Core Engine review note

参照は 7 本あります。監査はまだ保留で、公開前の確認が残っています。

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  • 2026-09-24: 初稿作成(自動起稿レーン・装填在庫)

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参考資料