「ほんとにあった!呪いのビデオ」って、まだ続いとるって知っとった?2023年に100巻突破したらしいんじゃけど、あれって「視聴者が送ってきたよく分からん映像をそのまま集めて売る」だけの企画じゃろ?普通そんな薄い企画、何年も持たんじゃろ。なんで1999年にいきなりあんなものが成立したんじゃ?
確かに、企画そのものはシンプルですよね。でも「薄い企画が続いた」んじゃなくて、「薄い企画でも採算が取れる条件が、たまたま1999年にちょうど揃っていた」んだと思います。順番に見ていきましょうか。
この記事について
映像に映っているものが本物の心霊現象かどうかは主題にしない(§3-4)。ここで確かめるのは、「視聴者投稿の素人映像を集めて売る」という一見リスクの高いビジネスが、1999年という特定の年に成立してしまった経済的・技術的な条件のほうだ。
先に結論を言うと、このジャンルは天才の企画力ではなく、三つの条件がたまたま同じ年に重なったことで成立した。
制作費を劇場公開なしで極限まで削れる商慣行(オリジナルビデオ/Vシネマ)、素材を無料同然で提供してくれる人がすでに存在していたこと(家庭用ビデオカメラの普及)、そしてそれを置くだけで売れる棚がすでに全国に存在していたこと(レンタルビデオ店網)——この三つが1999年時点でどれか一つでも欠けていたら、同じ企画は成立しなかった。
関連: 幽霊の見た目は時代ごとに全く違う型に作り替えられてきた——あの記事では「幽霊の姿」を塗り替えた主体の変遷を追ったが、今回は「呪いのビデオ」というジャンルそのものが、なぜ1999年という特定の年に事業として成立したのかという、興行と制作費の話を掘り下げる。
1999年8月22日、レンタルビデオ店の棚に何が並んだか
そもそも、あのシリーズっていつから始まったんじゃ?企画した人が最初から「100巻続けるぞ」って思っとったわけじゃないじゃろ。
最初から長期シリーズ化を狙っていた形跡はないんです。企画者の張江肇氏が、前年(1998年)に大ヒットした映画『リング』の成功を受けて、ホラー企画として立ち上げたのが始まりだとされています。視聴者から寄せられた「説明のつかない映像」を検証して集める、という形式でスタートしました。
1998年
映画『リング』が大ヒット。国内でホラーコンテンツ全般への需要が高まる。「呪いのビデオ」の企画動機として名前が挙がるのはこちらで、翌年アメリカで公開される『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』ではない(後述)。
1999年8月22日
「ほんとにあった!呪いのビデオ」第1巻がVHSで発売。同年10月に第2巻、12月に第3巻と続く。企画・製作総指揮は張江肇氏・鈴木ワタル氏、構成・演出は中村義洋氏ら、製作はNSW(日本スカイウェイ)とパル企画。
2002年
BEST SELECTIONとしてDVD化が始まる。翌2003年8月22日には通常シリーズ第1・2巻もDVD化された。
2003年3月8日
劇場版『ほんとにあった!呪いのビデオ THE MOVIE』が公開。構成・演出は白石晃士氏(後に『ノロイ』などの found footage ホラーで知られる監督)が担当。上映時間82分。
2023年
通常シリーズが100巻に到達。その後も継続中。
24年もの間、基本的に同じフォーマットを崩さずに続いとるってこと?普通のホラー作品なら、飽きられてとっくに終わっとるところじゃろ。
そこが今回のポイントです。企画のアイデア自体は他にも真似できそうなのに、24年間このフォーマットを続けられる採算構造を持っていたのが、このシリーズだけだった。次に、その採算構造がどうやって組み上がったのかを見ていきます。
なぜ「劇場公開しない」ことが弱みではなく強みになったのか
でもさ、劇場公開しない映像作品って、普通は「お金がなくて劇場公開できなかった二軍」ってイメージじゃない?なんでそれが強みになるんじゃ?
80年代後半の日本の映像産業だと、それが逆転していたんです。「オリジナルビデオ」と呼ばれる、最初からレンタルビデオ店向けに直接発売する劇映画のジャンルが1985年に始まり、1989年に東映がVシネマとしてこの市場を確立しました。劇場公開を前提にしないことで、配給・宣伝・プリント(フィルム複製)にかかる費用をまるごと制作費に回せる、という商慣行だったんです。
| 時期 | 制作費の目安 | 背景 |
|---|---|---|
| 1989〜1990年(東映Vシネマ創設期) | 6,000〜7,000 | 劇場公開作品より低コストだが、まだ「ビデオ映画」としての作り込みが前提だった時期 |
| 2000年前後(参入増による価格競争後) | 2,000〜3,000 | 複数の製作会社が参入し価格競争が進行。「呪いのビデオ」第1巻発売(1999年)はこの下落の途中 |
| 「呪いのビデオ」の追加コスト削減 ── 台本・俳優・セットを最初から持たない | ||
出典:オリジナルビデオの成立経緯に関する記述をもとに編集部作成。
なるほどのう……でも「呪いのビデオ」って、俳優も脚本もセットも要らんのじゃろ?それって2,000万円の相場よりさらに下、ってことじゃない?
その通りです。視聴者投稿の映像を素材にする形式だと、既に安かったVシネマの制作費構造から、さらに脚本料・俳優のギャラ・美術セットという主要な支出項目をまるごと外せる。1999年の時点で「劇場公開なしの直接販売」という商慣行が既に10年かけて確立していたからこそ、そこにもう一段安い構造を乗せることができた、という順番なんです。
「素材」を提供する側が、既にそこにいた
制作費を削れるのは分かったけど、それだけじゃ映像は集まらんじゃろ。誰かが実際にビデオカメラで何か撮って、送ってこんといかんわけじゃし。
そこが二つ目の条件です。「送る側」がすでにどれだけの規模でいたか、を見てみましょう。
調査:内閣府経済社会総合研究所(毎年2〜3月実施)。
読み方:1980年代を通じて緩やかに伸び、1990年代に入って加速。1999年時点で3世帯に1世帯以上がビデオカメラを保有していた。
出典:内閣府「消費動向調査」主要耐久消費財の普及率をもとに編集部作成。
3世帯に1世帯以上って、思ったより多いんじゃな。でも普及率が高いことと、「わざわざ変な映像を局に送る」のは別問題じゃない?そんな酔狂な人、そんなにおらんじゃろ。
一件あたりの発生確率が低くても構わない設計になっているんです。全国の36%以上の世帯にカメラがある状態だと、母数がものすごく大きい。初期の巻では最優秀者に1万円、後期には最大20万円という懸賞金(現在は最優秀9万円)を用意していて、投稿された映像は原則として返却しない規約になっています。これは「大部分の投稿はボツになる」ことを前提にした設計で、低いヒット率でも母数の大きさでカバーできる、という構造なんです。
レンタル市場という「棚」がすでに全国にあった
制作費を削れて、素材を送ってくれる人もおる。あとは、それをどこで売るかじゃな。
そこが三つ目の条件です。日本映像ソフト協会の統計を見ると、1999年のレンタルビデオ店向け市場(レンタル店用)は約1,071億円、パッケージ販売市場(販売用)は約1,215億円でした。この規模の流通網が、新しいジャンルのために一からお金をかけて作る必要もなく、すでに全国に存在していたわけです。
出典:一般社団法人日本映像ソフト協会「販売用・レンタル店用・業務用別市場の推移」をもとに編集部作成。
つまりVHSのレンタル網に乗っかって始めたけど、その後DVDで「売る」ほうに市場が急に大きくなったタイミングにもちょうど乗れた、ってことか。運がいいのう。
運というより、既存の流通網に依存するビジネスだったからこそ、流通の主役がVHSレンタルからDVDセルに移り変わっても、フォーマットを変えるだけで乗り換えられた、と見たほうが正確だと思います。もし専用の劇場網や専用アプリを一から作るようなビジネスモデルだったら、この移行にはもっとコストがかかっていたはずです。
同じ年、海外でも似た現象が起きていた。でも理由は別
待って、1999年っていえば『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』も同じ年じゃろ?素人が撮った風の映像で恐怖を演出するっていう発想、あっちの真似したんじゃないんか?
時期が近いので混同されやすいんですが、企画の動機として記録に残っているのは前年(1998年)の『リング』のヒットで、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』との関連を示す一次的な記述は見当たりませんでした。むしろ面白いのは、同じ「素人映像ふうの恐怖」という見た目に、まったく別の経済構造から両方たどり着いた、という点なんです。
ほんとにあった!呪いのビデオ(日本)
- 1999年8月22日、VHSでレンタル店直販として発売開始
- 収益源はレンタル・セル市場という既存の国内流通網
- 映像は視聴者投稿。脚本・俳優・セットのコストを最初から持たない
- 宣伝は基本的に店頭の棚とシリーズ化のみ。広告費をかけない設計
ブレア・ウィッチ・プロジェクト(米国)
- 1999年に劇場公開。制作費は約6万ドルという超低予算
- 収益源は世界興行収入で、最終的に約2億4,800万ドルに到達
- 映像は脚本のある擬似ドキュメンタリー(俳優が即興で演じるフィクション)
- 公開前からウェブサイトやテレビ特番を使ったバイラル型の宣伝を展開
似た見た目が同じ年に出てきたのは、真似じゃなくて、それぞれの産業で「安く済ませる工夫」を煮詰めた先がたまたま同じ画になった、ってことか。
はい。片方はレンタル店の棚の上で脚本を手放し、もう片方は劇場興行の上で宣伝費を手放した。同じ「素人映像っぽさ」でも、削った場所がまったく違うんです。
今度から、急に増えてきたものを見たら「それ、いつから安く作れるようになったんじゃ?」って先に聞くことにするわ。……文化祭の出し物を決めたとき、面白さより先に、誰が何の道具を持っとるかで決まっとったの、あれと同じじゃった。
「あのシリーズ、なんで100巻超えても終わらんの?」という素朴な疑問から始めたら、Vシネマの制作費相場・家庭用ビデオカメラの普及率・レンタル市場の規模という、企画そのものとは関係ない三つの数字に行き着いた。
ソース
- ほんとにあった! 呪いのビデオ|Wikipedia(発売日・企画者・製作体制・DVD化とシリーズ展開の時系列)
- オリジナルビデオ|Wikipedia(オリジナルビデオ/Vシネマの成立経緯・制作費相場の推移)
- ブレア・ウィッチ・プロジェクト|Wikipedia(制作費・興行収入・宣伝手法)
- 白石晃士|Wikipedia(劇場版『THE MOVIE』の構成・演出担当の確認)
- ほんとにあった!呪いのビデオ THE MOVIE:作品情報|映画.com(劇場版の公開日・上映時間)
- 販売用、レンタル店用、業務用別市場の推移|一般社団法人日本映像ソフト協会(1996〜2003年の市場規模統計)
- 主要耐久消費財の普及率(二人以上の世帯)|e-Stat(内閣府「消費動向調査」)(家庭用ビデオカメラの世帯普及率の推移)
- モキュメンタリーホラーの先駆け『ほんとにあった!呪いのビデオ』が描いた「生々しい恐怖」と「伝説回」|ふたまん+(発売時期とブレア・ウィッチ・プロジェクトとの同時代性についての補足)
参考文献・検証ログ
Score Breakdown
参照は 8 本あります。監査はまだ保留で、公開前の確認が残っています。
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更新・訂正履歴
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- 2026-09-30: 初稿作成(自動起稿レーン・装填在庫)
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- 現時点で訂正はありません。
参考資料
- 参考ほんとにあった! 呪いのビデオ|Wikipediaja.wikipedia.org
- 参考オリジナルビデオ|Wikipediaja.wikipedia.org
- 参考ブレア・ウィッチ・プロジェクト|Wikipediaja.wikipedia.org
- 参考白石晃士|Wikipediaja.wikipedia.org
- 参考ほんとにあった!呪いのビデオ THE MOVIE:作品情報|映画.comeiga.com
- 参考販売用、レンタル店用、業務用別市場の推移|一般社団法人日本映像ソフト協会jva-net.or.jp
- 一次主要耐久消費財の普及率(二人以上の世帯)|e-Stat(内閣府「消費動向調査」)e-stat.go.jp
- 参考モキュメンタリーホラーの先駆け『ほんとにあった!呪いのビデオ』が描いた「生々しい恐怖」と「伝説回」|ふたまん+futaman.futabanet.jp