なあなあ、さっき近所のコンビニ寄ったら、レジ前にあったはずのおでんの鍋が無かったんじゃけど。もう時期が終わったんかのう? それとも気のせいか?
時期の問題もありますけど、それだけじゃないんです。ファミリーマートは2019年まではほぼ全店でおでんを扱っていたのに、2021年の調査では提供店は全国約1万6000店のうち約2割まで落ちています。「気のせい」じゃなくて、本当に減っているんですよ。
おでんが売ってる期間、実は思ったより短い
コンビニのおでんは通年商品ではない。例年、9月半ば前後から販売が始まり、2月いっぱいで終える店が多い。2025年はセブン‐イレブンが9月30日から販売を開始している。終了時期には地域差もあり、暖かくなるのが早い九州は東北・北海道より早めに撤収する傾向がある(macaroni「コンビニおでんはいつからいつまで売ってる?」)。
コンビニおでんの「営業期間」は約5カ月半
販売開始から終了まで、そしてピーク月まで。まず期間そのものを数字で押さえる。
開始日はチェーンで違う
終了は地域差がある
コンビニと外食でピークがズレる
それでも「時期」だけでは説明しきれない
9月開始で2月終わりって、思ったより短いんじゃな。半年もないってことか。でもさっきの「2割まで減った」ってのは季節の話とは違うじゃろ?
はい、そこが今回の本題です。「今年はまだ早い」とかじゃなくて、その店がもうおでん自体をやめているケースが増えているんです。理由は現場の負担にあります。具材ひとつひとつの扱いから見てみましょう。
具材ごとに「置ける時間」が数時間しかない
おでんは煮込んだら終わりではない。具材ごとに販売可能な目安時間が決められていて、経過した具材は廃棄処分になる。その時刻は記録することになっている(財経新聞「コンビニのカラクリ(3) おでんの手間は並みじゃないのに、煮込んだ頃には廃棄が迫る!」)。
つみれ
3時間
こんにゃく
5時間
大根
8時間
具材ごとに「消費期限」が別々に付いている、と考えるとイメージしやすい。
弁当やおにぎりのように「販売期限を1つ守ればいい」商品と違い、おでんは鍋の中の具材の数だけ時計が動いている。つみれは3時間、こんにゃくは5時間、大根は8時間で入れ替え対象になり、店員はそれぞれの投入時刻を把握しておく必要がある。仕込みや補充、つゆの温度管理まで含めると、調理と容器の清掃だけで1時間半から2時間ほどかかるとされる(オトナンサー「なぜ『おでん』販売をやめるコンビニが増えているのか」)。
つみれ3時間て、朝仕込んだら昼過ぎにはもう入れ替えの時間ってことじゃろ。それを一日中ずっとやり続けるんか……。
廃棄コストは本部と加盟店、どちらが多く払うのか
時間切れで廃棄になった具材の費用は、誰が負担するのか。コンビニ会計では、この「廃棄ロス」の負担割合が長く論点になってきた。セブン‐イレブン・ジャパンは2009年6月、公正取引委員会から「加盟店に対する見切り販売の制限」で排除措置命令を受けたのをきっかけに、廃棄ロス原価の15%を本部が負担する新たな加盟店支援策を発表した(セブン‐イレブン・ジャパン「加盟店様をバックアップする新たな支援策について」2009年6月23日)。裏を返せば、残りの85%は今も加盟店側の負担ということになる。
本部が負担する分
15%
2009年、公正取引委員会の排除措置命令を受けて新設された支援策。それ以前は基本的に廃棄ロスの全額が加盟店負担だった。
加盟店が負担する分
85%
つみれ・こんにゃく・大根……時間切れで廃棄した具材のコストは、この割合で各店舗の経営を圧迫する。
えっ、85%て、廃棄した分のほとんどを店が被っとるってことじゃろ。それ、仕入れ頑張れば頑張るほど廃棄リスクも増えるだけなんじゃないんか?
その通りです。だから経営判断としては「売れ残るリスクの高い商品を、そもそも置かない」という選択が合理的になりやすいんです。おでんは具材ごとに廃棄タイマーが動く商品なので、このリスクが特に高いんですよ。
1日に何個売れば元が取れるのか
具材の管理コストと廃棄負担を踏まえると、おでんは「1日にどれだけ売れれば採算に乗るか」という損益分岐の問題になる。目安として挙げられているのは1日100個という数字だ。来店客の購入数は1人あたり4〜5個が多いとされ、これは1日あたり20人程度がおでんを買う計算になる。ただし実際には、シーズン中に毎日100個以上を売り続けている店舗はそれほど多くないという(オトナンサー「なぜ『おでん』販売をやめるコンビニが増えているのか」)。
BREAKEVEN CHECK
1日の販売個数と採算の目安
日々の仕込みと具材ごとの時間管理に1.5〜2時間をかけ、それでも100個に届かない日が続けば、廃棄コストの85%負担がそのまま店の収支を削っていく。人手が足りない店舗ほど、この手間のかかる商品から先に撤退する動機ができる。
実際どこまで減ったのか、時系列で追う
「感覚として減った気がする」ではなく、実際に何が起きたのかを時系列で並べる。
2019年の炎上騒動は、衛生面への不安を後押しした一因として挙げられることが多いが、日本経済新聞の報道が明確に挙げているのは人手不足と新型コロナウイルス禍だ。具材ごとの時間管理という手間のかかる作業を担う人員そのものが、コロナ以降さらに確保しづらくなった。レジ横の鍋自体が消え、代わりに工場で調理済みのカップ・袋入り商品に切り替える店が増えたのは、この2つの流れが合わさった結果と見てよさそうだ。
数字だけ見れば「割に合わないなら本部主導でやめればいい」で終わる話だ。だが実際に鍋を仕込んで、具材ごとの時間を確認して、廃棄を記録して……ってやってるのは、本部じゃなく個々の加盟店とバイトなんだよな。手間のかかる商品が減るのは合理的な判断だが、その手間を最後まで背負っていたのが誰だったかは、鍋が消えた後も覚えておいていい。
市場規模そのものが、毎年縮んでいる
個別チェーンの取扱店舗数だけでなく、市場全体の金額でも縮小は続いている。矢野経済研究所の調査(「コンビニエンスストア」各年度版)によれば、おでん市場規模(メーカー出荷金額ベース)は次のように推移している。
| 年度 | 市場規模 | 前年度比 |
|---|---|---|
| 2019年度 | 563億円 | 100.9% |
| 2020年度 | 536億円 | 95.2% |
| 2021年度 | 518億円 | 96.6% |
| 2022年度 | 495億円 | 95.7% |
出典:矢野経済研究所「コンビニエンスストア」各年度版(ゆいマーケメディア経由で数値を確認)
3年連続で前年度を下回っており、縮小は一時的な落ち込みではなく傾向として続いている。さらに追い打ちをかけているのが原材料価格だ。2023年7月時点の卸売価格は、大根が1kgあたり47円(前年同月比174.5%)、こんにゃくが236円(同109.5%)、ちくわが822円(同106.1%)と、いずれも前年を上回っている(農畜産業振興機構・日本こんにゃく協会・全国すり身協会の統計を基にしたゆいマーケメディアの整理)。手間がかかる商品の仕入れ値まで上がれば、「置かない」という選択がさらに合理的になる。物価そのものが家計にどう効いているかは『値上げ慣れ』が危険な理由でも扱っているが、おでんの縮小はその一断面でもある。
時間管理、廃棄の負担、採算ライン、原材料の値上がり……全部が「置かない方が楽」の方向に積み重なっとるんじゃな。
どれか1つなら乗り越えられたかもしれませんが、今は同時に効いているので、鍋が消える流れの方が自然になっているんです。
要するに、あの鍋、店ごとに「今日は元が取れるか」を毎日計算されながら置かれとったんじゃな。……わしも夏休みの宿題、最初の3日で終わらせるか最後の3日で泣きながらやるかで、労力とやる気の帳尻がずっと合わんかったの思い出したわ。
「季節商品」の外側にある帳簿の話
おでんを扱うなら、普通は具材の組み合わせや温め方の話になる。今回あえて販売可能時間・廃棄コストの負担割合・1日の採算ラインを追ったのは、毎年目にする光景の裏に、公開資料の数字だけで追える帳尻合わせがあったからだ。この帳尻合わせは、鍋が出ている間はほとんど誰の目にも触れない。
きっかけは「そういえば最近見ないな」という個人的な違和感でした。調べてみたら、本部と加盟店の廃棄コスト負担割合まで、企業の公式資料にちゃんと書いてありました。
ソース
販売期間・具材ごとの時間管理・廃棄コストの負担割合・店舗数の推移・市場規模のデータを、それぞれの一次情報・報道で確認しています。
- macaroni「コンビニおでんはいつからいつまで売ってる?調査内容を詳しく解説!」 — 販売開始・終了時期の目安
- NPD Japan / Circana「おでんのピークは何月? コンビニのシェア減少に影響か」2018年10月17日 — コンビニと外食・中食のおでん需要ピーク月の違い
- 財経新聞「コンビニのカラクリ(3) おでんの手間は並みじゃないのに、煮込んだ頃には廃棄が迫る!」2019年11月27日 — 具材ごとの販売可能時間
- セブン‐イレブン・ジャパン「加盟店様をバックアップする新たな支援策について」2009年6月23日 — 廃棄ロス原価の本部15%負担(公式リリース)
- オトナンサー「なぜ『おでん』販売をやめるコンビニが増えているのか」 — 調理・清掃の所要時間、1日の採算ライン目安
- 日本経済新聞「コンビニおでん、人手不足で激減 ファミマ、提供店2割」2021年11月2日 — ファミリーマート・ローソンの提供店舗割合
- J-CASTニュース「セブン店員が『おでん』で不適切動画を投稿」2019年2月 — 2019年の炎上騒動の経緯
- ロケットニュース24「【おでんの日】そういえば最近コンビニのレジ前おでん、見なくなったよね?」2024年2月22日 — 都内店舗の実地調査
- ゆいマーケメディア「グツグツ温まる売上をあなたに!~おでん市場の現状分析と勝ち残り戦略~」 — 矢野経済研究所の市場規模データ、原材料卸売価格の整理
参考文献・検証ログ
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参照は 9 本あります。監査はまだ保留で、公開前の確認が残っています。
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参考資料
- 参考macaroni「コンビニおでんはいつからいつまで売ってる?」macaro-ni.jp
- 参考財経新聞「コンビニのカラクリ(3) おでんの手間は並みじゃないのに、煮込んだ頃には廃棄が迫る!」zaikei.co.jp
- 参考オトナンサー「なぜ『おでん』販売をやめるコンビニが増えているのか」otonanswer.jp
- 参考セブン‐イレブン・ジャパン「加盟店様をバックアップする新たな支援策について」2009年6月23日7andi.com
- 参考J-CASTニュースj-cast.com
- 参考日本経済新聞「コンビニおでん、人手不足で激減」nikkei.com
- 参考ロケットニュース24rocketnews24.com
- 参考ゆいマーケメディア経由で数値を確認yui-marke.com
- 参考NPD Japan / Circana「おでんのピークは何月? コンビニのシェア減少に影響か」2018年10月17日npdjapan.com