NTM DATA VIEW
電気代の4層構造
値上がりした「どの層か」が見えていないと、節電でも下げられない部分を誤解する。
Layer 1
基本料金
契約アンペア(kVA)で決まる固定費。使用量がゼロでも請求される。
Layer 2
電力量料金(従量課金)
使った kWh に比例。多段階料金制が多く、多く使うほど単価が上がる。託送料はここに内包される。
Layer 3
燃料費調整額
原油・LNG・石炭の輸入価格に連動して毎月変動。上限撤廃後はプラスもマイナスも大きくなった。
Layer 4(政策固定)
再エネ賦課金
FIT/FIP 制度の買取費用を国民全体で分担。毎年度、経済産業大臣が単価を決める。電力会社の裁量外。
▶ このうち Layer 3・4 が「値上がりの震源」として可視化されやすいが、Layer 2 に内包された託送料も規制単価であることは意外に知られていない。
電気代の請求書には「再エネ発電促進賦課金」という行がある。金額は毎月ほぼ同じで、季節には連動しない。何かの間違いではなく、これは政府が毎年度設定する固定コストだ。
2026年度の単価は4.18円/kWh(経済産業省、2026年3月19日設定)。標準的な世帯(月300kWh)に換算すると、毎月1,254円が問答無用で上乗せされる計算になる。
一方、電気代の大部分を占める燃料費調整額は市場に連動し、託送料は消費者の請求書に直接は出てこない。「値上がりの何割が政策由来か」という問いに答えるには、4つの層それぞれの性格を理解する必要がある。
再エネ賦課金——FIT制度14年で約19倍になった固定コスト
この数値について
再エネ賦課金の単価は経済産業大臣が毎年3月ごろ告示する。2025年度は3.98円/kWh(経済産業省、2025年3月21日)、2026年度は4.18円/kWh(経済産業省、2026年3月19日)。2025年度の算定式:(再エネ買取費用等4兆8,540億円 − 回避可能費用等1兆7,906億円 + 事務費等44億円)÷ 販売電力量7,708億kWh = 3.98円/kWh。実質的な国民負担額は約3兆678億円(2025年度)。
2012年7月、固定価格買取制度(FIT)が始まったとき、賦課金単価は0.22円/kWhだった。太陽光・風力などの再生可能エネルギーを普及させるために、買取費用を電力消費者全体に分担させる仕組みだ。
再エネ賦課金 単価の推移
出典:経済産業省プレスリリース(2025年3月・2026年3月)
2012年度比での伸び率は約19倍。この上昇は「再エネが増えた」という成果の裏側でもあり、「買取費用という確定コストが積み上がった」という構造の帰結でもある。
重要なのは、この単価を消費者も電力会社も下げられないという点だ。 賦課金は全国一律で、どの電力会社と契約しても、どんな省エネをしても、使った kWh に比例して必ず請求される。節電すれば金額は減るが、単価は制度が決める。
ちょっと待つのじゃ。「再エネ増やします、でも増やした分のコストは消費者が払います」……それって、誰が得してるんじゃ?
再エネ発電事業者がFITで確定価格を得て、その差額を電力消費者が負担する、というのがFITの設計よ。太陽光の普及初期には必要なしかけだったけど、コストが急落した今も高い買取単価の契約が20年間続くものは残る。実際、2023年度の買取費用が4兆8,540億円まで膨らんだのは、2012〜2015年頃の高単価(例えば太陽光は当初40〜42円/kWh)で契約した案件が現役だから。
「再エネ振興」という旗は誰も降ろせない。だから単価だけじわじわ上がり続ける。意思決定者のコストと、支払い者のコストが別れているときに起きる典型的なパターンだ。
燃料費調整額——市場が揺れ、政策の選択が増幅する
燃料費調整額は「市場連動」と説明される。火力発電の燃料(原油・LNG・石炭)の輸入価格が上がれば電気代に転嫁し、下がれば還元される。東京電力の燃料費調整単価は毎月更新されており、公式一覧で確認できる。
Market-driven(市場由来)
国際燃料価格の変動
- 中東・ロシアの地政学リスク
- 世界の需要変動(中国経済など)
- LNG のスポット価格
Policy-shaped(政策が揺さぶる)
日本のエネルギーミックス選択
- 原発稼働率が低いほど LNG 依存が高まる
- 石炭シフトは安いが炭素コストが発生
- 再エネ電源が増えると燃料費調整が下がる側に働く
「市場由来だから政策と無関係」とは言い切れない部分がここにある。2022年から2023年前半にかけてLNGスポット価格が急騰した際、東京電力など大手7社が規制料金の値上げを申請した。東京電力は2023年1月に平均29.31%の値上げを経済産業大臣に申請。最大の理由として「燃料費調整単価が調整の上限値に到達する状況が継続していること」を挙げた(申請概要、経済産業省公表版)。
この「上限」が機能不全になったのも、背景には日本の化石燃料依存という構造がある。原発の稼働率が高ければ、LNG価格の上昇をここまで直接的に受けなかった可能性がある。燃料費調整額は「市場の鏡」だが、その鏡が反射する景色はエネルギー政策の選択そのものだ。
結局、「政策のせいじゃない」って言いながら、実は政策が選んだ状況でもあるんじゃろ? 原発動かせてれば、この騒ぎはもう少し小さかったかもしれんというか……。
厳密に言うと「原発があれば電気代は必ず安い」という単純な話でもないけど、LNG への集中リスクが大きくなることは確か。ドイツが脱原発で天然ガス依存を高め、ウクライナ危機で直撃を受けた経緯と構造的に似ているよ。どのリスクを選ぶかが政策で、そのリスクが顕現したときのコストを払うのは市民、という話。
市場が上げると「外部要因だから仕方ない」、政策が上げると「制度の設計だから仕方ない」——どちらも「仕方ない」でくくられる。仕方なくない選択があったかどうかは、選択が終わった後で議論される。
託送料——請求書に「見えない」最大のインフラコスト
電気の請求書に「託送料」という項目は出てこない。しかし、電気を届けるための送配電網の維持費用(託送料)は、電力会社が「電力量料金」として消費者に転嫁している。
一般送配電事業者が定める低圧供給の託送料平均単価(2024年4月適用)は以下の通りだ(経済産業省 電力・ガス基本政策小委員会 参考資料、2023年12月)。
| エリア | 託送料単価(低圧) | 備考 |
|---|---|---|
| 東京電力パワーグリッド | 9.44円/kWh | 首都圏最大エリア |
| 東北電力ネットワーク | 11.20円/kWh | 過疎・積雪エリアが多く高め |
| 関西電力送配電 | 8.61円/kWh | 10エリア中最安 |
| 北海道電力ネットワーク | 10.62円/kWh | |
| 沖縄電力 | 12.68円/kWh | 10エリア中最高 |
出典:経済産業省 電力・ガス基本政策小委員会 参考資料3(2023年12月)2024年4月適用単価
東京電力管内(TEPCO)の例で見ると、9.44円/kWh がインフラ維持のために電力会社の原価として乗っている。消費者から直接見えないが、電力量料金の中でこれが最大のコスト構成要素の一つになっている。
託送料は経済産業大臣の認可制で、「正当な理由なく拒んではならない」(電気事業法)が原則だ。市場価格ではなく規制価格である点では再エネ賦課金と同じ「政策コスト」の性格を持つが、その中身はインフラ維持・廃炉引当・離島対応など多様で、単純な政策判断とは性格が異なる部分もある。
300kWh 家庭の試算——「政策由来分」は月いくらか
SCENARIO: 東京電力 従量電灯B 30A契約・月300kWh使用
基本料金(30A)
契約容量で固定
電力量料金(300kWh)
多段階。託送料を内包
燃料費調整額
毎月変動(プラスもマイナスも)
再エネ賦課金(2026年度)
4.18円/kWh × 300kWh
月の合計(概算)
約11,500〜12,500円※電力量料金は2026年5月時点の東京電力従量電灯B 30A公表単価を参考に概算。燃料費調整は変動するため「±数百円」として記載。合計はあくまで試算で、実際の請求額とは異なる場合がある。
この試算で再エネ賦課金が占める割合は約10〜13%になる。金額として「小さい」か「大きい」かは人それぞれだが、この部分は節電では実質的に下げられない。使用量をゼロに近づければ比例して下がるが、単価を変える手段は消費者にはない。
「政策由来」の意味をより広くとると、電力量料金に含まれる託送料(東京電力エリアで9.44円/kWh相当)も規制単価であり、これを加えると「規制コストの合計」は月300kWhで3,000円超になる計算だ。ただし託送料はインフラ維持という性格が強く、「政策の無駄」と単純に言えるものではない点は注意が必要だ。
じゃあ節電して「再エネ賦課金を節約する」のは、単価が変わらないからほとんど意味がないんじゃろか……?
使用量に比例するから、節電すれば金額は下がるよ。300kWhを200kWhにすれば賦課金も836円になる。ただ、「節電すれば再エネ賦課金が下がる」という感覚と、「単価は制度が決めるので安くする方法がない」というのは両方正しいの。電力会社を変えても単価は一律。新電力に乗り換えても賦課金は同じ、というのが意外と知られていない盲点ね。
「高い安いの前に、何が固定で何が変動かを知れ」ということだ。知らないまま節電すると、下げられる部分と下げられない部分の判断ができなくなる。
この記事を書いたthe NTMの立場
NT Media 編集部は「値段だけを問題にする」つもりはない。
再エネ賦課金が上昇しているのは、再生可能エネルギーの導入量が実際に増えているからでもある。太陽光発電の設備容量は2012年度から大幅に拡大し、2023年度に国内電力の約10%を賄う水準に達した(資源エネルギー庁)。そのコストを電気利用者が分担するという設計は、エネルギー転換の一つの方式だ。
ただし、FIT 制度下での「買取単価の固定化」が、コスト低下局面でも高い負担を生む構造的な問題であることも事実で、この点については政府の審議会でも繰り返し議論されている。
the NTM がこの記事で目指したのは「再エネは悪い」でも「仕方ない」でもなく、「どこが固定費で、どこが変動費か」を分解することだ。電気代の請求書にある数字の正体がわかれば、家計防衛の手を打てる場所と打てない場所が見えてくる。
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