有名人の名前を打つと、「〇〇 嫌い」だの「〇〇 逮捕」だのと候補がずらっと出るじゃろう。あれを見ると、世間はみんなそう思っておるのかと感じてしまうんじゃが、そういうものなのかのう。
Google自身は「候補は事実や意見の表明ではない」と説明しています。ただ、そのうえで「そう受け取られることがある」とも認めているんです。この記事では、その「受け取られる」ところで何が起きているのかを順に見ていきます。
候補の材料は誰かの検索であって、誰かの主張ではない。それでも画面の上では、両方が同じ見た目で並ぶ。
Googleは候補を「実際の検索」から作っている
Googleの検索ヘルプによると、入力を始めると出てくるオートコンプリートの候補は「Googleで実際に行われた検索」を反映している。判断材料には、入力した言語、地域、急上昇している関心、ログイン中なら自分の過去の検索も入る。さらに、ウェブ上の「言葉の並びのパターン」から単語や句を予測することもあるという。
| 段階 | Googleの説明 | 読者が見落としやすい点 |
|---|---|---|
| 材料 | 実際の検索、言語、地域、急上昇、自分の履歴 | 自分の履歴が混ざるので、人によって見え方が違う |
| ふるい(自動) | 暴力的・性的・憎悪的・中傷的・危険な候補を自動で抑える | ふるいがあるので「最も多い検索」の順位表ではない |
| ふるい(人手) | 方針違反が漏れたら担当チームが該当候補と近い変種を削除 | 削除は個別対応で、漏れは事後に直される |
| 位置づけ | 「事実や意見の表明ではない」。ただし「そう受け取られることがある」 | 運営自身が誤読の余地を認めている |
出典:Google 検索ヘルプ「How Google autocomplete predictions work」をもとに編集部作成。
ヘルプは、候補を「Google トレンド」と比べないよう求めてもいる。候補は、ある話題で最も多い検索をそのまま並べたものではないからだ。2018年のGoogle公式ブログでも、広報担当のDanny Sullivanが「候補は検索結果ではないし、何を検索できるかを制限するものでもない」と書いている。同じ記事は、一見ひどい候補が必ずしもひどい意見の反映ではなく、問題のない情報を探す検索だった場合もある、とも述べている。
候補は「質問の形」で偏見を運びうる
では、候補が実際に偏った見方を運ぶことはあるのか。Paul BakerとAmanda Potts(2013)は、検索窓に「なぜ(why)」などの疑問詞と、民族・性別・性的指向といった集団の名前を組み合わせて入れ、出てきた候補を集めた。集まった質問は2,690問。これを内容で分類すると、特定の集団には特定の性質(外見や振る舞いなど)を結びつける質問が出やすい、という結果になった。論文の題名は、その一例にちなんだ「Why do white people have thin lips?(白人はなぜ唇が薄いのか)」である。
出典:Google 検索ヘルプ、Baker & Potts(2013)をもとに編集部作成。
「なぜAは〇〇なのか」という疑問文は、Aが〇〇であることを前提にした文になっている。聞く側に悪意がなくても、その前提ごと次の人の画面に出る。これは調査で確かめられた因果ではなく、疑問文の形についての読みである。この論文の結論を、日本語の候補にそのまま当てはめることも、この記事ではしない。
わしが「〇〇 なぜ嫌われる」と調べたとするじゃろう。嫌いじゃなくて、嫌われる理由を知りたかっただけでも、候補としては同じ一行になるのかのう。
そこが難しいところです。Googleのブログが言うように、疑いの検索と、疑いを晴らす情報を探す検索が、同じ言葉に見えることがあります。画面に出る一行からは、どちらだったかは区別できないんです。
裁判所は「単語だけ」とは見なかった事例がある
候補が人の評判に触れたとき、裁判所はどう見たのか。確認できた報道は2件ある。
出典:AFPBB News(2010年9月27日)、弁護士ドットコム(2013年5月3日)をもとに編集部作成。
2件を並べると、争われたのは「候補が意見を述べたかどうか」というより、候補が人を不利な情報へ導く入口になっていたかだと読める。東京の報道が引く判断も、候補の言葉そのものというより、押した先に違法な投稿が見やすく並ぶ状況を問題にしている。ただし、地裁の判断はこの2件だけで決まるわけではない。他の日本の判決の中身までは、今回は確認できていない。
調査:Google公式ブログ(2018年4月20日)。当時の数値で、現在の仕様は確認していない。
読み方:10件か5件の中に入るかどうかで、候補の目に触れやすさが変わる。
「意見に見える」ことに、検索する側ができること
候補の中身を決めているのは、結局は検索した人たちとGoogleのふるいであって、読む側ではない。それでも読む側にできることはある。
自分自身の記事も、この構造から自由ではない。この記事の題は、人が検索窓に入れそうな疑問文の形にしてある。読まれるために疑問を借りるという点では、いま批判している仕組みと同じ側にうちも立っている。
構造の話としては、AIの要約が検索の入口を変えている点もある。クリックの手前で話が終わる問題は検索欄の中で話が終わる。AI要約時代、記事は読まれずに消費されるのかで、ラベルや権威が判断を代行してしまう問題は「ファクトチェック済み」の嘘で扱っている。
候補が並んでおっても、それは誰かが打った言葉の寄せ集めじゃ。……わしも「あの子は意地悪らしい」と、人が口にした一言だけで決めてしまったことがあってのう。
主な参照資料:
- Google 検索ヘルプ「How Google autocomplete predictions work」 — 候補の材料、ふるい、「事実や意見の表明ではない」という位置づけ
- Google公式ブログ Danny Sullivan「How Google autocomplete works in Search」(2018年4月20日) — 候補は検索結果ではないという説明、表示数
- Baker & Potts(2013)「‘Why do white people have thin lips?’」Critical Discourse Studies 10(2), 187-204 — 2,690問の疑問文の分類(書誌はCrossrefで確認。本文は未読で、要旨と書誌情報に基づく)
- 弁護士ドットコム「検索エンジンの「サジェスト汚染」 グーグル「名誉毀損判決」をどう考えるべきか」(2013年5月3日) — 東京地裁の差し止めと慰謝料30万円
- AFPBB News「検索サジェストで『レイプ犯』は名誉毀損、グーグル敗訴 フランス」(2010年9月27日) — パリの裁判所の判断
参考文献・検証ログ
- Google 検索ヘルプ「How Google autocomplete predictions work」
- Google公式ブログ Danny Sullivan「How Google autocomplete works in Search」(2018年4月20日)
- Baker & Potts(2013)「‘Why do white people have thin lips?’」Critical Discourse Studies 10(2), 187-204
- 弁護士ドットコム「検索エンジンの「サジェスト汚染」 グーグル「名誉毀損判決」をどう考えるべきか」(2013年5月3日)
- AFPBB News「検索サジェストで『レイプ犯』は名誉毀損、グーグル敗訴 フランス」(2010年9月27日)
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参考資料
- 参考Google 検索ヘルプ「How Google autocomplete predictions work」support.google.com
- 参考Google公式ブログ Danny Sullivan「How Google autocomplete works in Search」(2018年4月20日)blog.google
- 参考Baker & Potts(2013)「‘Why do white people have thin lips?’」Critical Discourse Studies 10(2), 187-204doi.org
- 参考弁護士ドットコム「検索エンジンの「サジェスト汚染」 グーグル「名誉毀損判決」をどう考えるべきか」(2013年5月3日)bengo4.com
- 参考AFPBB News「検索サジェストで『レイプ犯』は名誉毀損、グーグル敗訴 フランス」(2010年9月27日)afpbb.com