確定申告のたびに「このMac、去年買ったやつなのにもう遅い」と唸っている NT Media 編集部です。
令和8年度税制改正で、個人事業主や中小企業が使う「少額減価償却資産の特例」の上限が 30万円未満から40万円未満 に引き上げられました。令和8年4月1日以後に取得した資産が対象です。
ネット上ではこれを受けて、「ポイント還元と組み合わせれば、毎年最新のMacとiPhoneを実質タダで回せる」という設計が語られはじめています。結論から言うと、骨格は成り立ちます。ただし、よく紹介される『ポイントで支払額を下げて40万円未満に落とす』という部分は、買い方によっては成立しません。 そして「ほぼタダ」になるかどうかを決めているのは、税制ではなく中古相場のほうです。
どこまでが制度として使えて、どこからが誤解なのか。国税庁の資料に当たりながら整理します。
なお、この記事は特定の買い方をすすめるものではありません。「制度の線は実際どこに引かれているのか」を、具体的な買い物に当てはめて確かめる思考実験として読んでください。線の位置が分かれば、この設計を採るかどうかは読者自身の仕事の中身で決められます。
用語解説
少額減価償却資産の特例(租税特別措置法28条の2・67条の5)
本来なら数年かけて減価償却する資産でも、一定額未満なら購入した年に全額を経費(必要経費・損金)にできる制度。青色申告をしている中小事業者が対象で、年間合計300万円が上限。令和8年度改正で上限が40万円未満に引き上げられ、適用期限も令和11年3月31日まで延長された。
取得価額
その資産を手に入れるために支払った対価のこと。「どう払ったか」ではなく「その資産にいくらの値が付いていたか」で決まるのが要点。ここを取り違えると、40万円未満かどうかの判定を間違える。
総合課税の譲渡所得
土地・建物・株式以外の資産を売ったときの所得。給与や事業所得と合算して課税されるが、年間50万円の特別控除がある。保有5年以内の売却は「短期譲渡所得」となり、控除後の金額が全額課税対象になる。
何が変わったのか:30万円未満 → 40万円未満
少額減価償却資産の特例は「40万円未満」へ
令和8年4月1日以後に取得した資産から適用。年間300万円の上限は据え置き。
上限が10万円ぶん上がった
取得日が令和8年4月1日以後
従業員400人超は対象外
年300万円の枠は変わらない
上限が上がったこと自体は単純な話です。問題は、手元のMacがこの線の内側に入るかどうかをどう判定するかにあります。
「ポイントで40万円未満にする」は成り立つのか
ここが本題です。同じ「ポイントを使う」でも、税務上の扱いは真っ二つに分かれます。
| 買い方 | 取得価額はどうなるか | 40万円判定に効くか |
|---|---|---|
| 通販サイトで本体を買い、その場でポイントを充当して請求額が下がった | 値引き後の金額が取得価額になる | 効く |
| キャンペーン割引・学割・下取り充当などで請求額そのものが下がった | 値引き後の金額が取得価額になる | 効く |
| ポイントでギフトカードを買い、そのギフトカードで本体を決済した | 本体の定価が取得価額。ギフトカードは支払手段にすぎない | 効かない |
| 購入後に別途ポイントが付与された(還元) | 本体の取得価額は下がらない。付与分は別の経済的利益 | 効かない |
国税庁は、事業者がポイントを使った場合の処理について、そのポイント使用が「商品本体価額の値引き」であれば、値引き後の金額が支払対価になるとしています。逆に値引きでない場合は、商品対価とポイント充当分を分けて両建てで処理することになります。
つまり「ポイントを貯めておいて、ギフトカード経由で高額モデルを買う」という設計では、取得価額は定価のまま。40万円の線は動きません。よく紹介される「定価50万円のMacをポイント充当で39.9万円に落として一括償却」という話は、この一点で崩れます。50万円のMacは、どう払っても50万円の資産です。


では、どう設計すればいいのか
答えは拍子抜けするほど単純です。
- 本体は「取得価額が40万円未満に収まる構成」を選ぶ(ここが税務の線)
- ポイント還元は、その現金負担を下げる別の手段として重ねる(ここは家計の線)
- どうしても40万円を超える構成が必要なら、素直に減価償却するか、購入時点の値引き(同一取引内の充当・下取り)で線の内側に入れる
なお、事業用の購入で得たポイントは、値引きとして処理するか、使用時に雑収入として計上するかのいずれかになります。「もらったポイントは何も申告しなくていい」わけではない点は押さえておく必要があります。
売るときの税金:50万円の特別控除は「全部まとめて」
1年で買い替える設計の肝は、出口側にあります。特例で全額を経費にした資産は、帳簿上の価値がゼロになっています。ということは、売却額がそのまま利益になる。ここに税金がかからないのか、という話です。
少額減価償却資産の特例を適用した資産(取得価額10万円以上のもの)を売却した場合、その損益は事業所得ではなく 総合課税の譲渡所得 として扱われるのが実務上の取扱いです。そして総合課税の譲渡所得には、年間50万円の特別控除があります。
| 項目 | 内容 | 1年回転での意味 |
|---|---|---|
| 特別控除の額 | その年の譲渡益の合計に対して50万円 | 資産ごとに50万円ではない。その年に売った全部の合計 |
| 短期・長期の区分 | 保有5年以内は短期、5年超は長期 | 1年で売るので必ず短期。長期の「2分の1課税」は使えない |
| 控除の順番 | 短期の譲渡益から先に控除する | 短期しかないので単純に合計から50万円を引く |
| 取得費 | 減価償却後の残額 | 全額経費にしているのでゼロ。売却額=譲渡益になる |
重要なのは「50万円は資産ごとではなく、その年の合計に対して1回だけ」という点です。MacとiPhoneを同じ年に売れば、2台の売却額が合算されます。
モデルケースで計算する
実際にどのくらい得なのかを、前提を置いて計算します。以下の金額はすべて、計算を成り立たせるために置いた仮定値です。実際の機種価格・中古相場・税率はご自身の状況に置き換えてください。
前提
- 課税所得は330万円〜695万円の帯(所得税20%+住民税10%=合計30%として計算)
- 消費税の 課税事業者 で、税抜経理 を採用している
- 100%事業用(家事按分なし)
- Mac:税抜38万円(税込41.8万円)/iPhone:税抜16万円(税込17.6万円)
- 1年後の売却額:Mac 20万円/iPhone 10万円(まず保守的に、取得価額の55%程度で置きます。実勢はこれより高く、次の章で置き直します)
| 項目 | Mac | iPhone | 合計 |
|---|---|---|---|
| 取得価額(税抜) | 380,000円 | 160,000円 | 540,000円 |
| 40万円未満の判定 | ○ セーフ | ○ セーフ | 300万円枠も余裕 |
| 一括経費化による税負担の減少(30%) | −114,000円 | −48,000円 | −162,000円 |
| 1年後の売却額 | +200,000円 | +100,000円 | +300,000円 |
| 売却益への課税(50万円控除内) | 0円 | 0円 | 0円 |
| 実質の年間負担 | 66,000円 | 12,000円 | 78,000円 |
保守的に置いても、年間およそ 7.8万円 で最新のMacとiPhoneを毎年使える計算です。ここに購入時のポイント還元(仮に本体価格の10%相当なら約5.4万円ぶん)が乗れば、体感負担はさらに下がります。
ただし、この試算で一番弱いのは売却額の置き方です。次にそこを実勢に直します。
結論を分けるのは税制ではなく「1年後にいくらで売れるか」
上の試算で置いた「Mac 20万円」は、控えめすぎる数字でした。ここを実勢に直すと、結論そのものが変わります。
まず実額を見ます。2025年3月発売の MacBook Air M4 について、買取業者2社が公表している買取価格(2026年7月末時点)です。
| 構成(13インチ・M4) | 未使用品の買取 | 美品中古の買取 |
|---|---|---|
| 16GB / 256GB | 117,000円 | 111,000円 |
| 16GB / 512GB | 132,000円 | 126,000円 |
| 24GB / 512GB | 148,000〜150,000円 | 141,000円 |
| 32GB / 512GB | 163,000円 | 151,000円 |
発売から1年半近く経った機体で、美品なら未使用品との差が数千円しかないという値付けです。ここで気をつけたいのが、率を出すときの分母。
中古相場の「◯割」を税込定価で計算すると、事業者の実感より1割ほど低く出ます。課税事業者が実際に負担しているのは税抜価格(消費税は仕入税額控除で戻る)なので、率は税抜取得価額に対して見るべきです。この分母で計算すると、1年〜1年半落ちの美品はおおむね 7割から8割 に着地します。個人売買ならさらに上を狙えます。
残価8割で計算し直す
税抜取得価額の75%で売れたとして、最初の試算をやり直します。
| 項目 | 当初の想定(残価55%) | 実勢に近い想定(残価75%) |
|---|---|---|
| 取得価額(税抜・Mac+iPhone) | −540,000円 | −540,000円 |
| 一括経費化による減税(30%) | +162,000円 | +162,000円 |
| 1年後の売却額 | +300,000円 | +405,000円 |
| 正味の年間負担 | 78,000円 | −27,000円(プラス) |
計算上は「年間2.7万円のプラス」になります。つまり資料でよく語られる「実質タダ〜微プラス」は、成立しうる。ただしその理由は、ポイント還元でも取得価額の裏ワザでもありません。Apple製品の中古価格が高いこと、それだけです。
プラス側には2つの上限が待っている
ここまで来ると、今度は税制のほうが引っかかってきます。
- 50万円の特別控除の枠に当たる。 残価75%だと譲渡収入は405,000円。控除枠の残りは9.5万円ほどしかありません。もう1台売ったら超えます。高く売れるほど、非課税の枠を先に食い切るという構造です
- 消費税の課税事業者は、売却が課税売上になる。 事業用資産の売却は消費税の課税取引です。405,000円で売れば、そこに含まれる消費税ぶん(およそ3.7万円)の納税が増えます。これを引くと、上のプラス2.7万円は帳消しになり、1万円ほどの負担に戻ります
この2つを踏まえた着地は「ほぼトントン」です。派手ではありませんが、「毎年最新機種に乗り換えて、年間のコストはほぼ据え置き」——それがこの設計の正体だと考えるのが妥当です。

なお、負担が小さいことは「買うべき理由」にはなりません。この設計が意味を持つのは、処理速度が売上に直結する仕事をしている人だけです。メールと表計算で足りる仕事にとっては、安く済む買い替えであっても、必要のない買い替えのままです。
この設計が崩れる5つの条件
ここまでの計算は、いくつもの前提の上に立っています。ひとつ外れると成立しません。
- ❌ 免税事業者である — 消費税の免税事業者は税込経理しか選べないため、判定も税込。上のモデルケースのMacは税込41.8万円となり、40万円の線を超えて特例が使えません。同じ機種でも、インボイス登録の有無で結論が変わります
- ❌ 家事按分がある — 100%事業用でなければ、経費にできるのは事業使用割合ぶんだけ。私用と兼用のiPhoneをまるごと経費にすると、税務調査で問題になります
- ❌ 青色申告をしていない — この特例は青色申告者が対象です。白色申告では使えません
- ❌ 年間300万円の枠を使い切っている — 上限が40万円に上がったぶん、枠は早く尽きます。他の設備投資と競合します
- ❌ 同じ年に売りすぎた — 譲渡益の合計が50万円を超えた部分には課税されます。他の資産(金地金・車・会員権など)の売却も同じ枠を使います
- 令和8年4月から、少額減価償却資産の特例は 40万円未満 に拡大。年300万円の上限は据え置き
- 40万円の判定に使うのは 取得価額。ギフトカード経由の決済やあとから付くポイント還元では、この金額は下がらない
- 効くのは 同一取引内での即時充当・値引き・下取り。請求額そのものが下がるかどうかが分かれ目
- 売却益は総合課税の譲渡所得。50万円の特別控除はその年の合計に1回だけ。1年保有は短期なので全額が課税対象
- 免税事業者は税込判定になるため、同じ機種でも特例を使えないことがある
- 成否を決めるのは税制ではなく 1年後の残価。1〜1年半落ちの美品なら税抜取得価額のおおむね7〜8割で売れ、この水準なら年間の負担はほぼトントンに着地する
- ただしプラス側には上限がある。50万円の控除枠を先に食い切るのと、課税事業者は売却が課税売上になるの2つで、浮いたぶんは戻される
- 負担が小さいことは買う理由にならない。毎年最新機種が売上に直結する人にだけ意味がある設計
この記事は「節税ハック」として流通している設計を検証する形で書きました。検証の過程で、企画の入り口にあった「ポイント充当で定価50万円のMacを39.9万円に落として一括償却する」という前提が、税務上は成立しないことが分かりました。取得価額は支払手段ではなく取得対価で決まるからです。
その一方で、検証の過程でもう一つ分かったことがあります。「ほぼタダで回せる」という結論自体は、実は成り立ちます。ただし成立させているのは節税の技巧ではなく、Apple製品の中古価格が落ちにくいという、身も蓋もない事実のほうでした。
同じ結論に見えても、支えている柱が違えば、崩れ方も違います。税制で説明されていた話が実は相場で決まっているのなら、相場が変わった年に一斉に崩れます。この記事で数字を何度も置き直したのは、その柱がどちらなのかを確かめるためです。
NT Media 自身も、検索で読まれる数字とインパクトのある見出しに引っ張られる構造の中にいます。「実質タダ」と書けば読まれることは分かったうえで、それが何によって成り立っているかまで書くほうを選んでいます。
なお、本記事は制度の一般的な仕組みを整理したものであり、個別の税務判断ではありません。取得時期、経理方式、事業使用割合によって結論は変わります。実行前に顧問税理士または所轄税務署にご確認ください。
参考資料
- 一次国税庁 No.5408 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例nta.go.jp
- 一次経済産業省「少額減価償却資産の特例を拡充しました(40万円未満・合計300万円まで)」meti.go.jp
- 一次国税庁 No.3152 譲渡所得の計算のしかた(総合課税)nta.go.jp
- 一次国税庁 No.6480 事業者が商品購入時にポイントを使用した場合の消費税の仕入税額控除の考え方nta.go.jp
- 一次国税庁 No.1907 個人が企業発行ポイントを取得又は使用した場合の取扱いnta.go.jp
- 一次国税庁 租税特別措置法関係通達 第28条の2(中小事業者の少額減価償却資産の取得価額の必要経費算入の特例)関係nta.go.jp
- 一次国税庁 所得税基本通達〔少額の減価償却資産及び一括償却資産(令第138条及び第139条関係)〕nta.go.jp
- 参考マネーフォワード クラウド会計「消費税の税込経理と税抜経理で少額減価償却資産の判定は違う?」biz.moneyforward.com
- 参考ひなた税理士法人「個人の少額減価償却資産の売却」hinatax.jp
- 参考スマスピ買取「MacBook Air 2025 Apple M4モデル 買取価格表(2026年7月30日更新)」smaspi.jp
- 参考イオシス買取「MacBook Air 買取価格表」k-tai-iosys.com
参考文献・検証ログ
- 国税庁 No.5408 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例
- 経済産業省「少額減価償却資産の特例を拡充しました(40万円未満・合計300万円まで)」
- 国税庁 No.3152 譲渡所得の計算のしかた(総合課税)
- 国税庁 No.6480 事業者が商品購入時にポイントを使用した場合の消費税の仕入税額控除の考え方
- 国税庁 No.1907 個人が企業発行ポイントを取得又は使用した場合の取扱い
- 国税庁 租税特別措置法関係通達 第28条の2関係
- 国税庁 所得税基本通達〔少額の減価償却資産及び一括償却資産〕
- マネーフォワード クラウド会計「消費税の税込経理と税抜経理で少額減価償却資産の判定は違う?」
- ひなた税理士法人「個人の少額減価償却資産の売却」
- スマスピ買取「MacBook Air 2025 Apple M4モデル 買取価格表(2026年7月30日更新)」
- イオシス買取「MacBook Air 買取価格表」
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- 一次経済産業省「少額減価償却資産の特例を拡充しました(40万円未満・合計300万円まで)」meti.go.jp
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- 一次国税庁 租税特別措置法関係通達 第28条の2関係nta.go.jp
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- 参考ひなた税理士法人「個人の少額減価償却資産の売却」hinatax.jp
- 参考スマスピ買取「MacBook Air 2025 Apple M4モデル 買取価格表(2026年7月30日更新)」smaspi.jp
- 参考イオシス買取「MacBook Air 買取価格表」k-tai-iosys.com