のう、この前の熊本の揺れのあとも「地震雲じゃ」という投稿が回っておったじゃろ。わし、ああいうのを半分くらいは信じとるんじゃ。夕方に変な筋雲を見た日に揺れたことが、ちゃんとあるんじゃもん。
その「ちゃんとある」が、今日の入口だと思います。気象庁も日本地震学会も、「ない」と断言まではしていないんです。断言しない理由が、aiko さんの記憶と同じ方向を向いているのかどうか、順に見てみましょう。
地震雲が消えないのは、反証が足りないからではなく、「外れた日」が数えられない形の中に置かれているからだ。
公的な説明は、もう何年も前から公開されている。それでも同じ話は地震のたびに戻ってくる。この記事は「地震雲は本当にあるのか」には答えない。気象庁と日本地震学会の文章を読んで、どういう数え方をすると、地震雲が「当たる」ように見えるのかを確かめる。
公式の文章にも「ないとは言いきれない」と書いてある
先に、公的機関が何と書いているかを並べておく。
| 発信元 | 結論にあたる記述 | 留保にあたる記述 |
|---|---|---|
| 気象庁 「地震予知について」 | 「雲は大気の現象であり、地震は大地の現象で、両者は全く別の現象です」 | 「『地震雲』が無いと言いきるのは難しいです」 |
| 日本地震学会 FAQ 2-12 | 「地震研究者の間では一般に、雲と地震との関係はないと考えられています」 | 「雲と地震の関係が皆無であると断言はできません」 |
| 気象庁気象研究所の主任研究官(荒木健太郎氏) 2026年7月29日の投稿 | 「雲は地震の前兆にはなりません」 | 引用された範囲には見当たらない |
出典:気象庁「地震予知について」、日本地震学会「FAQ 2-12. 地震雲(2019年10月修正)」、JFC(2026年7月30日)。
機関の文章は、結論と留保が1セットで書かれている。これは研究者として誠実な書き方で、悪いことではない。ただ、ここから先は編集部の読みになるが、「言いきるのは難しい」が「ないとは言えない」に縮み、さらに「あるかもしれない」に伸びていく余地が、この書き方には最初からある。3行目のような短い断言のほうが引用しやすく、前の2行にある留保は削られて届くことがありうる。
言いきらんのは、まだ分かっておらんことがあるからじゃろ?ならわしの「ある」にも、席は残っとるんじゃな。
席は残っています。ただ、その席の条件が厳しいんです。「あるとしても、どんな雲で、地震とどう関係して現れるのかの科学的な説明がない」というのが気象庁の書き方で、座るには定義が要ります。それが決まっているかどうかは、少し先で見ます。その前に、数え方の話をさせてください。
日本では、揺れはいつもどこかで起きている
気象庁は、地震の頻度を同じページに書いている。
調査:気象庁「地震予知について」。震度4以上は2014〜2023年の平均で、熊本地震の活動で回数が多かった2016年を除く。
読み方:地震は群発するので、実際には均等に起きない。ここで見たいのは、平均すると「1週間待てば何かしら揺れる」という桁のこと。
気象庁はこの数字のあとに、こう結んでいる。「形の変わった雲と地震の発生は、一定頻度で発生する全く関連のない二つの現象が、見かけ上そのように結びつけられることがあるという程度のこと」。雲のほうも、「上空の気流や太陽光などにより珍しい形や色に見える場合がありますし、夜間は正確な形状を確認することができません」と書かれている。つまり、変わった雲を見る日も、揺れのある日も、どちらも珍しくない。
じゃが、わしの場合は「変な雲を見た、揺れた」じゃ。ちゃんと2つ揃うた日があるんじゃぞ。
揃った日は、4つの場合のうちの1つにすぎない。日本地震学会は、別のFAQ(2-10)で、地震の予知情報を見分ける基準のひとつに、次の4つのマスを確認できるか、を挙げている。ここでは、その4マスを雲に当てはめた。当てはめは編集部であり、日本地震学会が雲についてこの表を作っているわけではない。
出典:日本地震学会 FAQ 2-10(2017年12月修正)、FAQ 2-12(2019年10月修正)。
学会が見分けの基準にしているのは、4マスのそれぞれを確認できるか、なんです。最初のマスだけが集まっている「地震予知情報」は、数え方の面で信用しにくい、ということだと思います。
……わしの筋雲の日は最初のマスじゃのう。残りの3つの日は、そもそも一度も思い出したことがない。
「当たり」の条件が、最初から決まっていない
気象庁は、あいまいな予測が当たりやすいことにも触れている。「一年以内に、日本の内陸部で、マグニチュード5の地震が起こる」ような予測や、毎日起きている小さな地震を予測する場合は「たいてい当たりますが、それに情報としての価値はあまりない」。雲のほうは、当たりの条件の側がもっと曖昧だ。
日本地震学会 FAQ 2-12 の補足から、地震雲を「前兆として数える」ために必要な条件を、そのまま並べる。
補足3には、見落としやすい点がある。首都圏には羽田・成田・横田基地などがあって離着陸する航空機が多いため、「地震雲とされる飛行機雲を発見する可能性の高い場所ともいえる」と書かれている。夕方は太陽光による上層の雲のコントラストで、実際より低く見える場合が多く、高度を見誤る可能性も高まる、とある。交差する筋は、飛行経路が交差すれば当然できる、とも。
筋が交差するのは飛行機が交差したから、か。そう聞くと、わしの見た筋雲も怪しゅうなってきたのう。
怪しい、と断定はできません。aiko さんが見た雲が何だったのかは、もう確かめようがないんです。ただ、確かめようがない形のまま「当たった」と数えられてしまう、そこが問題なんだと思います。
2026年7月、同じことがもう一度起きた
つい最近の例がある。JFCの記事によれば、2026年7月28日に熊本県を震源とする地震が発生したあと、傘を開いたような形の雲の画像に「地震雲」「HAARPによる人工地震の特徴」といった文言をつけた投稿がXで拡散した。JFCは同年7月30日に「誤り」と判定している。
反証が間に合わなかったのではない。反証は2日で出て、しかも根拠は以前から公開されていた文章だった。それでも、書き手自身が「何度でも言いますが」と書かなければならない。反証は投稿1本ごとに出し直しになるが、説のほうは「雲が変わって見えた日」という、いつでも作れる材料の上に立っているからだ。ここは編集部の読みで、投稿を見た人が考えを変えたかどうかを測った資料は、今回見つけられていない。
反証を並べているこの記事も、同じ構造の中にいる。「なぜ消えないのか」と謎の形で題をつけたのは、読まれやすいからでもある。読まれた数は数えられても、読んだ人が次に空を見上げたとき何を数えるかは、こちらからは数えられない。判定ラベルが万能でない話は、「ファクトチェック済み」の嘘。チェック機関の権威化が生む盲点でも扱った。
……投稿は一日で回るのに、直す側は毎回あとから走るんじゃな。
はい。ですから「正しい説明がある」だけでは足りなくて、見る側が自分で数え直せる形にしておくことが、いちばん届きやすいのかもしれません。
要するに、次に変な雲を見たら、揺れたかどうかより先に写真と日付を残しておけばよいんじゃな。……外れた日の分も、あとで数え直せるからのう。
この記事で数えなかったもの
最初は「地震雲は存在しません」と言い切る形も考えた。そのほうが強く読まれる。だが気象庁も地震学会も、そこまでは書いていない。出典より強い言葉を使わないため、「本当かどうか」ではなく「どう数えると当たって見えるか」に柱を置いた。「信じている人の数」や「外れた投稿の数」は公的な調査を見つけられなかったので、書いていない。
ソース
気象庁と日本地震学会のページは本文を直接読み、引用はそのページの原文です。JFCの記事は2026年7月30日付で、荒木健太郎氏の投稿はその記事経由で確認しました(X投稿の原文は未確認)。
- 地震予知について(地震雲はあるのですか?・地震の頻度) — 気象庁
- FAQ 2-12. 地震雲(2019年10月修正) — 公益社団法人 日本地震学会
- FAQ 2-10. Web・雑誌等による地震予知情報の信頼性(2017年12月修正) — 公益社団法人 日本地震学会
- 熊本の地震による雲? 「雲は前兆にならない」と専門家が否定【ファクトチェック】 — 日本ファクトチェックセンター(2026年7月30日)
参考文献・検証ログ
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参照は 4 本あります。監査はまだ保留で、公開前の確認が残っています。
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