「オープンソースのAIモデル」という紹介を、この1年で何度も見た the NTM 編集部です。
先に結論を書く。その多くは、オープンソースの定義を満たしていない。 これは印象ではなく、定義文書とライセンス本文を突き合わせれば誰でも確認できる。
ただ、記事にする価値があるのはそこではない。満たしていないものばかりなのに、なぜ全員がその語を使い続けられるのかのほうだ。そして調べると、これは怠慢でも誤用でもなく、そう名乗ると得をする仕組みが実際に用意されている。
満たしていないのに名乗れるのは、名乗ると免除が付くから
openを名乗るモデルを14次元で評価した研究では、実際に開いているものはごく少数だった。それでも語が生き残るのは、宣伝価値だけが理由ではない。
ほぼ全部が満たしていない
名乗ると義務が減る
否定されたのは1社だけ
摘発できる違反は限られる
ニュースの概要
EU AI Act 第53条は、汎用AIモデルの提供者に技術文書の整備と学習データの公開要約を義務づけている。このうち自由・オープンソースライセンスで提供する事業者は、一部の義務を免除される。要約の公開義務は2025年8月2日から適用され、2026年8月2日から AI Office による適合性確認と是正措置が可能になった。制裁金は最大1,500万ユーロ(約28億円)または全世界年間売上高の3%のいずれか高いほう。本記事のユーロ建て金額は、欧州中央銀行公表の2026年8月14日レート(1ユーロ=183.93円)で換算した。
実際に開いているものは、ほとんど無い
まず現状を数える。ラドバウド大学の Liesenfeld と Dingemanse は2024年、openを名乗る生成AIの実態を評価する研究を FAccT で発表した。
対象は大規模言語モデル40本と画像生成6本。学習データセット、科学的・技術的文書、ライセンス、アクセス方法など14の次元に分けて、それぞれどこまで開いているかを実際に確認している。
| 評価軸の例 | 何を見るか |
|---|---|
| 学習データ | データセットそのもの、その説明、出所 |
| コード | 学習コード、推論コード |
| 重み | 配布の有無と条件 |
| 文書 | 論文、モデルカード、データシート |
| ライセンス | 重み・コード・データそれぞれの条件 |
| アクセス | APIのみか、ダウンロード可能か |
結論は明快だった。大手のほとんどが「open」を掲げているが、実際に開いているものはごく少数。研究は名指しで、Meta・Microsoft・Mistral が open や open source といった語を戦略的に流用しつつ、実際にはモデルを科学的・規制的な検証からほぼ遮蔽していると指摘している。
つまり「一部は本物、一部は偽物」ではない。使える規模の最前線に、定義を満たすものが事実上ない。だから「オープンソースかどうかで選ぼう」という助言は、そもそも選択肢が無い。
名乗ると、法的な免除が付く
では、なぜ語が生き残るのか。宣伝価値だけではない。EU AI Act が、自由・オープンソースライセンスの提供者に義務の免除を用意している。
- 技術文書の整備(第53条1項a)
- 統合する事業者向けの情報提供(同b)
- EU域外事業者の域内代理人の選任
- 著作権指令に対応する方針の整備
- 学習データの公開要約(同d)
- システミックリスクを持つモデルは免除の対象外
書類仕事が減り、EU に代理人を置かなくてよくなる。 域外の事業者にとって、代理人の免除は実務上かなり大きい。
つまりこの語には、いま制度のうえで値段が付いている。マーケティングの飾りではなく、名乗ると手続きが軽くなる。
待つのじゃ。それ、免除の条件はどうなっとる? タダで配っとる相手を軽くしてやろう、という趣旨の制度なら、商売しとる会社は最初から対象外なんじゃないか? だとすると名乗る意味がないぞ。
そこ、条文を読むと本当にそう書いてあるんです。免除を受けるには、重みを含むパラメータを公開していること、アクセス・利用・改変・再配布を認めるライセンスであること、そして有償で提供せず、収益化もしていないこと。
なので大手が実際に免除を取れるかは、かなり怪しい。それでも名乗るということは、利得が免除だけではないということですよね。生態系を自社の型で埋めること、採用や評判、規制側との交渉の余地。
法的な免除は「語に値段が付いた」ことの一番はっきりした証拠ではあるんですが、値段の全額ではないと思います。
なるほどのう。免除は取れんかもしれんが、名乗るのはタダか。それなら誰も降ろさんわけじゃ。
名指しで否定されたのは、Meta だけだった
ここが今回いちばん意外だった点になる。
これだけ多くの事業者が定義を満たさない形で open を名乗っているのに、オープンソースの定義を管理する Open Source Initiative(OSI)が、専用の記事を出して名指しで否定したのは Meta だけだ。「Meta の LLaMa ライセンスは、やはりオープンソースではない」という記事が、モデルの世代が変わるたびに繰り返し出ている。
他社が無傷だったわけではない。Databricks の DBRX、Google の Gemma、Stability AI なども研究者や報道から批判を受けている。ただし OSI が名指しで公式に否定する扱いを受けたのは Meta だけだった。
なぜ1社だけだったのか。Meta の違反が、文面だけで証明できる種類のものだったからだ。
| Meta のライセンス | MIT / Apache 2.0 で配る各社 | |
|---|---|---|
| ライセンス本文 | 月間7億ユーザーの上限、Meta の単独裁量による許諾、用途制限 | 利用者数の制限も用途制限も無い |
| オープンソース定義との関係 | 条項が明確に反する(利用の自由の制限、利用者の差別、分野の制限) | 条項としては適合している |
| 学習データの開示 | 無し | 無し |
| 反証のしやすさ | ライセンスを読めば終わる | 読んでも何も出てこない |
Free Software Foundation も2025年1月に Llama 3.1 のライセンスを不自由なものに分類しており、判断は複数の団体で一致している。
摘発できるのは条項だけで、本丸には誰も届かない
前の表の3行目と4行目を並べると、構図が出る。
見える違反だけが摘発され、見えない違反は無かったことになる。これは open という語に限った話ではない。検証可能性の低い約束ほど、破っても指摘されない。指摘の量は、違反の重さではなく確認のしやすさに比例する。
ということは、Meta は正直だったとも言えんか? 条項に書いたから叩かれたんじゃろ。黙って何も書かんかった会社のほうが、結果として得しとる。
そこは半分そうで、半分違うと思います。Meta が書いたのは制限のほうなんですよね。「7億人を超えたら許諾を取れ」と明記した。開示したのではなく、条件を付けた。
ただ、aikoさんの言い方を借りると、書いたから確認できたのは事実です。他社は制限を付けていない代わりに、データについても何も書いていない。書かれていないものは、褒めることも叩くこともできない。
だから正直さの比較というより、「書いた項目だけが評価対象になる」という評価の性質の問題かと。書けば減点され、書かなければ採点されない。
仕様書に書いた機能だけがバグ扱いされる。書かなかった挙動は、壊れていても仕様のうちだ。
開けている側は実在する。ただし規模が違う
「誰も開けていない」ではない。学習データまで公開しているモデルはある。
Olmo 3(Allen Institute for AI・2025年11月)は、学習データ、学習過程、途中のチェックポイントまで公開している。推論の途中経過を、それを生んだデータと学習判断まで遡れる設計だ。理念は実装されているし、検証もできる。
ただし全部、商用の主戦場にいない側にある。技術の限界で止まっているのではなく、事業上の露出が無いから開けていると読むほうが実態に合う。
順番が逆の可能性もある。出所を書ける素材だけで組んだから、その規模に収まったとも読める。どちらにせよ、開示と最前線が両立しにくいという関係は残る。
義務化で、線は動いたか
2026年、初めて制度が動いた。学習データの公開要約が義務になり、オープンソースライセンスで提供する事業者も、この義務だけは免除されない。前章までの「誰も検査していない」に、初めて名宛人が指定された形になる。
全社が期限内に提出している。 提出状況の調査によれば、テンプレートの欄を埋めたのは Google・Meta・Microsoft・OpenAI と、Hugging Face・SpeakLeash・Swiss AI といったオープンソース系。Anthropic・Mistral・xAI は欄を使わず記述文で提出した。
問題は中身だった。ほぼ全員が同じ欄にチェックを入れ、「公開データセット」を使ったと答え、「10兆トークン以上」と報告する。そこから先の区別がつかない。実質的な差が出たのは、利用者データを学習に使ったか、商用ライセンスをどう扱ったか、マルチモーダル対応の有無くらいだった。トリニティ・カレッジ・ダブリンとMozilla Foundationの調査では、記入済みのものでも品質基準を満たさない例が多いと報告されている。
「開示された」と「分かるようになった」の間には、まだ距離がある。
でも全員が同じ答えを書いたなら、本当に同じものを使っとるという情報ではないか? みんな似たようなWebデータで作っとるだけかもしれん。隠したとは限らんじゃろ。
その可能性は残ります。そして今の様式では、どちらなのか判定できないのが問題なんですよね。
ただ、差が出た項目を見ると示唆はあります。区別がついたのは利用者データの学習利用や商用ライセンスの扱い、つまり答えると責任が発生する種類のものでした。逆に「10兆トークン以上」のような、答えても何も起きない欄では全員が揃う。
さっきの「書いた項目だけが評価対象になる」と同じ形が、様式の中でもう一度出ていると読むほうが自然かと思います。粒度が、書き手の不利にならない位置で止まっている。
……線を引き直したつもりで、止まる場所が少し動いただけか。制度ができたら終わり、ではないんじゃな。
読者が持ち帰れる見分け方
「オープンソースかどうか」で選ぶことはできない。満たすものが実質存在しないからだ。代わりに、確認できるものを見る。
- ✅ ライセンス本文に、利用者数や用途の制限が書いてあるか。 あればオープンソースではない。自分に当たるかどうかとは別に、条項の有無を確認する
- ✅ 学習データについて何か書いてあるか。 「何も書いていない」でも構わない。書いていないと分かることに意味がある。EUのテンプレートに沿った要約が出ていれば、そこを読む
- ✅ 自分が動かせる版と、点数が出ている版は同じか。 パラメータ数・ベースモデル・学習方法を突き合わせる。名前だけでは判定できない
- ❌ 「オープンソース」という表記そのもの。 定義を満たさない使われ方が広く流通しているため、判定材料にならない
いずれも公開情報を読むだけで判定でき、根拠を他人に説明できる。説明できることが、この分野では実際に希少になっている。
編集後記:うちも中身を確認できていない側にいる
この記事の構造は、the NTM 自身にも当たっている。当媒体は記事の表紙画像を、公開された画像生成モデルをローカルで動かして作っている。そのモデルが何から学習したかを、編集部は確認できていない。
「重みを受け取った側は由来を辿れない」という本文の指摘は、そのまま自分たちの制作工程の説明になる。ここで「うちは調べた上で使っている」と書けないことが、この構造の実効性を示している。確かめる手段が無い相手には、誠実さでは届かない。
一方で、書けることもある。使っているモデル名とライセンスは記録でき、公開できる。由来まで遡れなくても、「どこまで分かっていて、どこから先は分からないか」の線を引いて示すことはできる。義務化された公開要約が本来やろうとしているのも、たぶんその線引きだ。まだ機能していないだけで、目指しているものは同じだと思う。
満たしていないのに名乗れる状態が続いたのは、名乗る側の不誠実さより、確認する手段が無かったことによる。確認できる項目だけが摘発され、確認できない項目は無かったことになる。その形は、13日前に始まった制度の中でも、まだそのまま残っている。
制度が本当に効き始めるとしたら、それは語の使い方を正した時ではなく、答えると不利になる欄を、それでも埋めさせられた時だろう。
参考文献・検証ログ
Score Breakdown
参照は 7 本あります。監査はまだ保留で、公開前の確認が残っています。
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更新・訂正履歴
更新履歴
- 2026-08-15: 初稿。EU AI Act 第53条(1)(d)の執行開始(2026-08-02)を受けて整理。
訂正履歴
- 現時点で訂正はありません。
参考資料
- 参考openを名乗る生成AIの実態を評価する研究dl.acm.org
- 参考「Meta の LLaMa ライセンスは、やはりオープンソースではない」opensource.org
- 参考Olmo 3allenai.org
- 参考提出状況の調査blog.pebblous.ai
- 参考**EU AI Act が、自由・オープンソースライセンスの提供者に義務の免除を用意している**linuxfoundation.eu
- 参考Free Software Foundation も2025年1月に Llama 3.1 のライセンスを不自由なものに分類shujisado.org
- 参考学習データの公開要約が義務になりwilmerhale.com