有効期限の近いポイントがあると、買う予定のないものまで買うてしまうことがあるじゃろ。あれは店にとっては、わしがうっかり期限を切らすほうが得なのか、慌てて使うほうが得なのか、どっちなのじゃ。
どちらが得かを直接示す公開資料は、今回の調査では見つかりませんでした。代わりに、会計基準と税のルールが失効をどう扱っているかは、原文で確認できます。そこから分かる範囲を、分かっていない範囲と分けて書きます。
会計も税も、「使われずに終わるポイントがある」ことを前提に作られている。ただし、その量が企業ごとにいくらなのかは、調べた範囲では公開されていなかった。
調べたのは、会計基準の原文、国税庁の通達、報道された事例、民間の調査、国際誌の論文の5種類だ。企業の決算資料から失効の実額を拾おうとしたが、今回は確認できなかった。公正取引委員会がポイントの有効期限そのものを問題にした資料も、見つけられていない。
会計は、「使われない分」を最初から織り込んでいる
企業会計基準委員会の適用指針第30号は、顧客が前払いした分のうち、使われずに終わる権利を「非行使部分」と呼ぶ(第53項)。そして、企業がその分を将来受け取れると見込む場合の処理を、次のように定めている。
| 企業の見込み | 収益を認識するとき |
|---|---|
| 使われない分を、将来受け取れると見込む | 顧客が権利を使っていくパターンに比例して、少しずつ |
| 受け取れるとは見込まない | 顧客が残りを使う可能性が極めて低くなったとき |
出典:企業会計基準委員会「企業会計基準適用指針第30号」をもとに編集部作成。
表1のとおり、基準は「失効するかもしれない分」の存在を前提にして、その分の売上をいつ計上するかを決めている。使われないポイントは例外ではなく、計算式の中に最初から入っている。
そうすると、わしが期限を切らすかどうかは、店の帳簿の上では「見込み」の中に入っておるのじゃな。切らした人がおらんと、見込みのほうが外れることもあるのかのう。
見込みが外れた場合の扱いは、基準ではなく各社の見積り方法の問題になります。公開資料では、どの会社がどの程度の失効を見込んでいるかまでは確認できませんでした。
税のルールは、有効期限の日を一つの区切りにしている
税のほうはもう少し具体的だ。国税庁の法人税基本通達2-1-39の3は、ポイントを付与した時点で前受けにした金額を、ポイントが使われたときに利益として扱うのを原則としている。そのうえで、使われなかった分に区切りを設けている。
出典:国税庁「法人税基本通達等の一部改正について(法令解釈通達)の趣旨説明」(平成30年5月30日付)をもとに編集部作成。
ここで読み取れるのは、有効期限が「消費者への案内」であるだけでなく、会社の側にとっても、使われずに残った分を利益として確定させる日付になっていることだ。期限の日付は、利用者には「使い切る締切」、会社には「未使用分の整理の日」という二つの顔を持つ。
ただし通達は、期限のないポイントにも10年の区切りを置いている。期限を設けないことで失効を避けても、会計と税の上では未使用分がいつまでも残り続けるわけではない。
失効した人は、どれくらいいるのか
では、実際に失効させる人はどれくらいいるのか。企業別の数字は見つからなかったが、民間の調査が一つあった。
調査:プレミア・クロスバリュー(ポイント交換サービス「交換.jp」の提供会社)、2021年12月、全国のカードまたはマイレージ利用者1,236人。
読み方:割合の分母が全回答者か各利用者群かは、報道の記載からは分からない。サービス提供会社による調査で、全国の失効額を「1389億円相当」とした推計の計算方法も、記事からは再現できない。
つまり、カードの利用者の3人に1人強、マイルの利用者の2人に1人弱が「切らしたことがある」と答えている。それが調査の範囲で言える全部だ。失効は一部の人の失敗ではなく、利用者の相当数が経験することとして観測されている。一方で、平均額が数千円規模だという点は、1回あたりの損が小さいことも意味する。
数千円ならわしも切らしたことがあるのう。じゃが、小さい額だからこそ、期限が来るたびに焦って買い足す人もおるのではないか? 結局それで損をしておるかもしれんぞ。
その点は、この調査では測れていません。失効した額は数えていますが、期限前に慌てて使って余計に買った額は数えていないからです。
「期限切れ」と「儲け」は同じ話ではない
ここまで読むと、期限が切れれば会社が儲かると考えたくなる。ただ、報道された一つの事例が、それを単純にできないことを示している。
JR東日本は2024年5月16日、2014年12月20日に発売した「東京駅開業100周年記念Suica」について、一度も使われていないカードを2026年3月31日に一律で失効させると発表した。乗りものニュースによると、2016年3月頃までに計427万枚が発送され、2024年3月末時点で約250万枚が未使用だった。1枚目に1,500円がチャージされているので、単純計算で約37億5,000万円分(預かり金を除く)が使われていない計算になる。
失効益:使えなくなった分が、会社の収益になること。
記事の記載では、今回のSuicaは失効したカードは回収され、チャージ残高と預かり金500円が返金されるとされている。
つまり、カードが「失効」しても、残高が戻ってくる仕組みなら会社の収益にはならない。この記事には、失効分が収益になるかどうかの記述はなく、ここから先は分かっていない。ポイントは、買い物の副産物として付与され、現金に戻らないものが多い。「期限が切れる」ことの意味は、ポイントの種類や規約によって変わる。
期限は行動を変えるのか──見つかった研究は1本
「期限が行動を変えるのか」を直接測った国内のデータは、今回は見つからなかった。近いものとして、Goić、Montoya、Troncosoが2025年に国際誌 International Journal of Research in Marketing に発表した論文がある。
この論文は、アブストラクトしか読めていません。ですので、ここから言えるのは「失効の量は人によって大きく違う」という点までです。期限が人を動かすかどうかは、別の研究が要ります。
この記事も、「失効益」という言葉を前に出せば読まれやすいと分かって題材を選んでいる。だから、数字が見つからなかった部分を、見つからなかったと書いた。ポイントの期限をめぐる話は、「得をする」「損をする」の物語にしやすい。だが、公開されている資料から言える範囲は、そこまで広くない。
期限の日は、わしの締切であって、店にとっては帳簿を片づける日でもあるのじゃな。……ならば慌てて買う前に、一晩だけ置こうと思う。去年、期限間際の札で買うた干し柿は、結局ひとつも食べんかったからのう。
主な参照資料:
- 企業会計基準委員会「企業会計基準適用指針第30号」 — 第52〜54項(非行使部分)を原文で確認
- 国税庁「法人税基本通達等の一部改正について」趣旨説明(2-1-39の3) — 平成30年5月30日付。通達本文と注を原文で確認。現行の条文は国税庁の基本通達ページで要確認
- 乗りものニュース「37億円分が未使用!?「東京駅開業100周年記念Suica」失効に注意」 — 2024年5月23日。JR東日本の発表(5月16日)の報道。失効分の収益の扱いは記載なし
- 神戸新聞「ポイント失効で、日本から「1389億円相当」が消えた!?」 — プレミア・クロスバリューの調査(2021年12月)の紹介。調査元はサービス提供会社で、推計方法は記事から再現できない
- Goić, Montoya, Troncoso(2025)International Journal of Research in Marketing 42(2), 450–466 — アブストラクトのみ確認。本文は未確認
参考文献・検証ログ
- 企業会計基準委員会「企業会計基準適用指針第30号 収益認識に関する会計基準の適用指針」(第52〜54項)
- 国税庁「法人税基本通達等の一部改正について(法令解釈通達)の趣旨説明」2-1-39の3(自己発行ポイント等の付与に係る収益の帰属の時期)
- 乗りものニュース「37億円分が未使用!?「東京駅開業100周年記念Suica」失効に注意」(2024年5月23日)
- 神戸新聞(連載記事)「ポイント失効で、日本から「1389億円相当」が消えた!?」(プレミア・クロスバリュー調査・2021年12月)
- Goić, Montoya, Troncoso(2025)「Breakage analysis for profitability management in high-value, low-frequency loyalty programs」International Journal of Research in Marketing 42(2), 450–466
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参考資料
- 参考企業会計基準委員会「企業会計基準適用指針第30号 収益認識に関する会計基準の適用指針」(第52〜54項)asb-j.jp
- 一次国税庁「法人税基本通達等の一部改正について(法令解釈通達)の趣旨説明」2-1-39の3(自己発行ポイント等の付与に係る収益の帰属の時期)nta.go.jp
- 参考乗りものニュース「37億円分が未使用!?「東京駅開業100周年記念Suica」失効に注意」(2024年5月23日)trafficnews.jp
- 参考神戸新聞(連載記事)「ポイント失効で、日本から「1389億円相当」が消えた!?」(プレミア・クロスバリュー調査・2021年12月)kobe-np.co.jp
- 参考Goić, Montoya, Troncoso(2025)「Breakage analysis for profitability management in high-value, low-frequency loyalty programs」International Journal of Research in Marketing 42(2), 450–466ideas.repec.org