ニュースで「炎上」を見るたびに思うんじゃがの、あれは何日で収まるもんなんじゃ? 3日か、1週間か。測った人はおらんのかのう。
先にお伝えすると、日本で「炎上の継続日数」を測った公開データは、今回探した範囲では見つかりませんでした。代わりに、「世の中の注目が何時間で減るか」を測った研究はあります。炎上そのものではないので、そのぶん差し引いて読む形になります。
炎上の「日数」は見つからず、注目の寿命は「時間」で測られていた
炎上の継続日数を測った公開データは、今回の調査では確認できなかった。確認できたのは、ニュース投稿サイトの記事の半減期(2006年)、Twitter の人気ハッシュタグが上位にいた時間(2013〜2016年)、炎上に書き込む人の割合(山口真一氏の調査)の3つ。
注目は急に減る
減る速さは上がっている
燃やす人は少ない
日数のデータは無い
注目は何時間で減るのか ── Digg の記事は半減期69分
炎上の寿命を考える入口として、まず「みんなの注目が何時間で冷めるか」を測った研究を見る。Fang Wu と Bernardo Huberman は、ニュース投稿サイト Digg の利用者約100万人の行動を調べた。対象は2006年に人気になった29,864本の記事だ(Wu & Huberman, 2007, PNAS 104(45))。
論文によれば、記事がトップページにいるのは通常1〜2時間で、注目の半減期は69分と推定されている。新しさを表す指標は最初の数時間で急に下がり、3時間後には0.03を下回った。
| 項目 | 報告された値 |
|---|---|
| 分析した記事数(2006年) | 29,864本 |
| トップページにいる期間 | 1〜2時間 |
| 注目の半減期 | 69分 |
| 新しさの指標(3時間後) | 0.03未満 |
出典:Wu & Huberman (2007) PNAS 104(45) をもとに編集部作成。
ここで注意したいのは、これは炎上ではなく、ニュース記事への票が減る速さの研究だという点だ。2006年の Digg と、今の SNS では仕組みも利用者も違う。炎上にそのまま当てはめることはできない。
69分とは短いのう。ならば炎上も一晩で消えそうなものじゃが、現実には何日も話題が続くことがあるじゃろ。あの差は何なんじゃ?
そこが、今回のデータで言い切れない部分なんです。Digg は「新しい記事に票が入る」仕組みで、同じ話題の続報や再投稿が起きるかどうかは、この研究の範囲に入っていません。炎上が長引く理由が続報なのか、別の媒体への飛び火なのかは、私たちには測れていません。
人気の話題が上位にいる時間は、短くなっていた
次に、SNS 上の話題を扱った研究を見る。Philipp Lorenz-Spreen らは、Twitter・Google Trends・Reddit・Wikipedia など複数のデータで、話題への注目が上がって下がるまでの時間を調べた(Lorenz-Spreen et al., 2019, Nature Communications 10)。
Twitter では、上位50位に入った人気ハッシュタグがそこに居続けた平均時間が、2013年の17.5時間から2016年には11.9時間まで短くなった。この間、上位50のハッシュタグを含むツイートは、週あたり約200万件から約400万件へ増えている。
出典:Lorenz-Spreen et al. (2019) Nature Communications 10 をもとに編集部作成。
論文は、この短縮を「流れるコンテンツの量が増え、限られた注目を奪い合う速さが上がったため」というモデルで説明している。話題の寿命は、話題の中身よりも、周りにどれだけ他の話題があるかで縮むというのが論文の主張だ。ただしモデルによる説明であり、2016年より後のデータはここでは確認していない。
2013年から2016年で、上位にいる時間が17.5時間から11.9時間になっています。同じ期間にツイート量は約2倍に増えているので、「話題が多すぎて一つ一つが短命になる」という説明は、数字の動きとは矛盾しません。
ほう。じゃが、ハッシュタグが上位におる時間と、炎上が燃えとる時間は同じと言ってよいのか? わしは違う気がするんじゃがのう。
おっしゃるとおり、違うと思います。ハッシュタグの順位は「その瞬間に何件書かれたか」だけを見ていて、批判された本人がその後どうなったかや、後から検索で見に来る人の数は入っていません。なので、ここでは「話題の注目は思ったより早く冷める傾向がある」までが言える範囲です。
燃やしているのは、ごく一部の人
寿命の話から少し離れて、炎上に書き込んでいる人の数を見る。国際大学GLOCOM の山口真一氏の調査を紹介した記事(ビジネス+IT、2016年6月29日付)によると、炎上に書き込んだことがある人は過去の全期間で1.1%、過去1年に絞ると0.5%だった。東京オリンピックのエンブレム問題でも、書き込んだのは約0.4%だったと同記事は紹介している。
同じ記事は、「東大美女」というキーワードのツイートを例に挙げている。該当するツイートは10,641件で、容認が23.6%、中立が60.3%、批判は12.5%にあたる1,326件だった。
出典:ビジネス+IT(2016年6月29日付)をもとに編集部作成。
この数字は、炎上の寿命を直接は語らない。ただ、タイムラインを埋め尽くして見える炎上でも、批判を書いた人は1,300人あまり、繰り返し書く人は約37人という見積もりが、この例にはある。火が見えているのと、燃やしている人が多いのとは別の話になる。
日本の炎上は、件数は数えられても日数は書かれていない
最後に、日本で炎上をどう数えているかを見る。シエンプレ株式会社は一般社団法人デジタル・クライシス総合研究所と共同で、炎上を月ごとに集計して公表している。2024年5月(5月1日〜31日)は84件で、炎上した主体の内訳は著名人37件(44.0%)、法人等31件(36.9%)、一般人13件(15.5%)、メディア3件(3.6%)。内容別では「特定の層を不快にさせる行為」が65件(77.4%)で最多だった(発表日は2024年7月10日)。
| 主体 | 件数 | 割合 |
|---|---|---|
| 著名人 | 37 | 44.0% |
| 法人等 | 31 | 36.9% |
| 一般人 | 13 | 15.5% |
| メディア | 3 | 3.6% |
出典:シエンプレ/デジタル・クライシス総合研究所「5月の炎上分析データ」(2024年7月10日発表)をもとに編集部作成。
この発表資料には、1件の炎上が何日続いたかという項目は載っていなかった。他の月の資料や有料レポートには載っている可能性があり、「存在しない」と断定はできない。本稿が言えるのは、無料で読める範囲では確認できなかったところまでだ。
件数は毎月数えとるのに、何日続いたかは書いとらんのか。数えやすいものだけが数字になっとるんじゃのう。
当事者にとって大事なのは、日数より「検索すると出てくるかどうか」だ。注目が半日で冷めても、1年後に名前を検索されたら記事が出る。冷めるのが速いことと、本人が楽になることは別の話だ。
結局、何が言えて、何が言えないのか
| 問い | 確認できたこと | 確認できなかったこと |
|---|---|---|
| 注目は何時間で冷めるか | Digg の記事は半減期69分(2006年) | 今の SNS・日本語圏の炎上での値 |
| 話題の寿命は変わったか | Twitter の人気ハッシュタグは17.5時間→11.9時間(2013→2016年) | 2016年以降の推移 |
| 誰が燃やしているか | 書き込み経験は1.1%、過去1年は0.5% | 調査の詳しい手法(紹介記事のみ確認) |
| 炎上は何日続くか | 月ごとの件数は公表されている | 継続日数の公開データ |
出典:本記事の各節に同じ。
「何日で収まる」と聞かれても、答えられるデータは見つからんかったのじゃ。じゃから、次に誰かが燃えとるのを見たら、「書いとる人は何人おるんじゃろ」と数えてから口を開くことにする。わしも、人の噂話に3回ほど口を挟んだせいで大ごとにしてしもうたことがあるでのう。
この記事の立場
この記事は「炎上の寿命」という、検索されやすい問いを入口にしている。ところが調べた結果は「日数のデータは見つからなかった」という答えで、読者が期待した数字は出せていない。分からないことを分からないと書く道を選んだが、見出しの引力に乗って読まれようとしている点では、炎上を拡げる側のメディアと同じ位置に立っている。
ソース
- Wu & Huberman (2007) Novelty and collective attention, PNAS 104(45) - PubMed Central — Digg 利用者約100万人・2006年の人気記事29,864本、半減期69分
- Lorenz-Spreen et al. (2019) Accelerating dynamics of collective attention, Nature Communications 10 - PubMed Central — Twitter 人気ハッシュタグの上位滞在時間(17.5時間→11.9時間)
- 山口真一氏の炎上調査を紹介した記事(2016年6月29日付)- ビジネス+IT — 炎上書き込み経験1.1%・過去1年0.5%
- 5月の炎上分析データ(2024年)- シエンプレ/デジタル・クライシス総合研究所 — 2024年5月の炎上84件の内訳
参考文献・検証ログ
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- 2026-10-10: 初稿作成(自動起稿レーン・装填在庫)
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- 現時点で訂正はありません。
参考資料
- 一次Wu & Huberman (2007) Novelty and collective attention, PNAS 104(45) - PubMed Centralpmc.ncbi.nlm.nih.gov
- 一次Lorenz-Spreen et al. (2019) Accelerating dynamics of collective attention, Nature Communications 10 - PubMed Centralpmc.ncbi.nlm.nih.gov
- 参考山口真一氏の炎上調査を紹介した記事(2016年6月29日付)- ビジネス+ITsbbit.jp
- 参考5月の炎上分析データ(2024年)- シエンプレ/デジタル・クライシス総合研究所digitalpr.jp